勇者ミサゴは紙耐久

田村サブロウ

掌編小説

 勇者ミサゴは紙耐久だ。


 そんな心無い悪評を周囲に受け続けて1ヶ月。


 冒険者ギルドにて新しい鎧を購入したミサゴは、ウキウキ気分で店内から出てきたのだった。


「ミサゴ姉、お帰りー」


 少年魔道士のアラヤが出迎える。彼はミサゴの仲間だ。


「ただいまー! 見て見て、この新品の鎧! すごいでしょ」


「へぇ、どれどれ。鑑定スキル・オン……へぇ、けっこう防御力あるねコレ」


 銀の光沢を輝かせるミサゴの鎧を、アラヤは実用性の面で高く評価した。


「ふっふっふ。これで私を散々バカにしてきたギルドの連中を見返してやれるわ。もう私は紙耐久なんかじゃないってね!」


「いや、見返すのはまだムリだと思うよ? 装備に頼ったメッキの防御力じゃ」


「そ、そんなこと無いわよアラヤ! もう私の防御力は万全よ!」


「じゃあ聞くけど、ミサゴ姉の最大HPって僕の半分より上いってたっけ?」


「ただしHPは考慮に入れないものとする!」


「ずいぶん都合のいい『防御力』もあったもんだね」


 辛辣に返すアラヤに、ミサゴは悔しげにプンプン頬を膨らませる。


 アラヤに翻弄されながらも、ミサゴは内心では余裕があった。


 HPこそまだまだだが、ミサゴの防御力が改善されたのは事実だ。


 今までミサゴはモンスターの不意の一撃で戦闘開始直後に戦闘不能、というアホなパターンが多くあった。だが、もうその心配は無い。


 これからは万全な防御力の下地をもって、勇者ミサゴの活躍の時代が来るのだ!


「さぁアラヤ! 冒険に行くわよ! そろそろダンジョンの第二回層を攻略するわよ!」


「オーケー。ミサゴ姉、またいきなり倒れたりしないでね?」


「倒れるわけないでしょ!」




 * * *




 ダンジョン第二回層にて、ミサゴは戦闘不能になって倒れていた。


 周囲には毒々しい紫色の蝶たちが舞っている。


「な、なんでぇ……」


「ありゃりゃー。防御力は高くても、防御力を無視して固定ダメージを与える毒ダメージはムリだったか。ミサゴ姉、素のHPはまだまだ低めだからね」


「か、解説なんかしてないで助けなさいよぉ、アラヤぁ!」


「毒なんて大したことないでしょ、なんてミサゴ姉が言い出したときからイヤな予感はしてたけど案の定だったね。あらかじめ僕は危ないよって警告したのに、無視されて悲しかったなぁ」


「あ、アラヤぁ! この蝶たち、なんか震えてるんだけど!? ちょっと怖いんだけど!?」


「おお。これがウワサに聞くアゲハ系モンスターの自爆攻撃かぁ。ミサゴ姉、がんばって耐えてね」


「自爆!? いやいや私、戦闘不能だから! 耐えるのなんて今はムリだから! ちょ、待って! アラヤしゃん助けてええ!!」


 ミサゴの悲鳴はダンジョンの闇の中に消えていった……。

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