薔薇につき。

エリー.ファー

薔薇につき。

 諸君らに薔薇について説明する。

 一度しか言わないのでよく聞いてほしい。

 もう、二つの国が飲み込まれ、死傷者は十四億五千万人と推測される。

 既に知っていることと思うが、薔薇は怪物だ。

 私たち人類の敵である。

 特徴はその触手による攻撃だが、飲み込んだ生き物の腕、臓器、血管、髪の毛、外皮などを編み込むことによって作られているため、今現在、触手の本数は飲み込んだとされる生き物の数の約半分とされている。

 半分と言っても、飲み込んだ生き物の数は膨大である。触手の本数について正確な数値は分かっていないが、今現在この場にいる隊員、またこの場にいない管理系の職員が一人三本ずつ触手を相手にしてもおつりが返ってくると言っておく。

 誤解を恐れずに言うのであれば、触手の本数は無限。無限である。

 触手に触れると、そこから小さな棘が伸び対象の体へと種を植え付ける。この種は脳に達すると、その者が戦闘員としてどれだけの価値があるかを計測し、戦闘員としての価値が低ければ体中に種をばらまき、対象の体液を混ざり合って爆発を起こして周辺の者たちの体にも種を植え付ける。また、その戦闘員の戦闘力が高いと認識された場合に限り、その種はその者を支配して周辺の者たちを殺すように命令を行う。その際、支配された対象者には若干意識があるとされるが、研究の結果、死を過剰に恐れるようになるとされている。つまり、支配され操られるようになった段階で、我が隊の敵となるが、それを対象者が認識しても自らの意思により自決を行うという判断は不可能となる。そのため、分かった時点で周りの人間がすぐ殺すように。

 攻撃手段は多岐にわたるがもう一つ気を付けるべきであるのは、花びらである。薔薇は触手につぼみを生み出し、咲かせることが確認されている。一見、普通の花となんら変わらないが、これらは小さな振動を感じると花びらを地面に落とすようになる。これらが地面に落ちるとその花びらの最も近くにいる生物、おそらくは二酸化炭素の濃度や、温度変化などで認識していると思われるが近づいていく。花びらはその対象に触れるとその場で粘着質の液体を染み出させるが、この液体はおそらく今現在の人類の文化、進歩、それらを凌駕するほどの接着力を持つものである。正確には、細胞のリストラクトフリニイズムと呼ばれている。簡単に説明すれば細胞レベルでの接着である。つまり、絶対に剥がれなくなるということだ。身に着けているものが体から離れなくなる、また、地面と体が離れなくなりその場から動けなくなる、などの事象が発生することが確認されている。おそらく、この薔薇は強くなり過ぎたことによって餌が近づかなくなるという問題に直面したのだろう。その解決する手段として、この花びらによる接着を行っていると考えられる。

 まさに進化だな。

 薔薇は、満月の夜になると現れ多くの犠牲者を出していたが、今夜はスーパームーンである。そのせいか、このような大きな被害となったと考えられている。

 夜が明ければまたどこかへと消え去ってしまうことは確実であり、なんとしても今夜、この薔薇を駆逐し平和を取り戻すことがわが軍が全滅しても行うべき最優先事項となっている。

 健闘を祈る。



「作戦名はいかがいたしましょう」

「薔薇に月」

「承知しました。繰り返します。作戦名、薔薇に月」

「あぁ、その怪物。薔薇につき、だ」

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