第19話 対決・ギャングレオ盗賊団特攻隊長①

 気合いを入れなおしたサイバラは前屈姿勢になる。

 俺が使ったことのないスタイルだが、この構えには覚えがある。

 ジャンから貰った本に書かれていた、"東洋のレスリング"とも呼ばれているスタイル――


「ハッケ・ヨーイ・ノッコター!!」

「うおぉ!?」


 前屈姿勢からの突進! そこから放たれる張り手!

 やはりこいつが使うスタイルは――


「<相撲>か……!」

「よく知ってるじゃねーか! このパワー! 突進! 突破力! てめえでも防ぎきれまい!」


 サイバラは連続で張り手を放ち、こちらに反撃の機会を与えてこない。

 サイバラは身長こそ俺より少し低いが、重量とそれに伴うパワーは俺以上だ。

 これは厄介だ。これまで戦ってきた相手の中でも、恐らく最強だろう。


「どうした、どうしたー!? 逃げるばかりじゃ―― ドブフ!?」


 だが、対策がないわけではない。

 本で読んだ知識だと、相撲には蹴り技がない。

 ならば蹴りを主体に下段を攻めれば、対抗できる!


「いってぇじゃねーかー! だが、甘っちょろいんだよ!!」

「なに!?」


 だがサイバラは俺の蹴りにも完全には怯まない。

 強引に蹴りに堪えた後、俺に組みかかってきた。



 ギチチチッ



「くっ……!? なんてパワーだ……!?」


 サイバラのパワーはすさまじい。

 組みかかった俺の動きを、完全に止めにかかっている。


「シャウラァア!」



 ブオンッ!



 そしてサイバラの気合いの一声と共に、俺は投げ飛ばされた。

 咄嗟に受け身をとって立て直すことはできたが、この俺がここまで押されるのは初めての経験だ。


「チィ! 立て直しやがったか!」

「大した腕前だな。流石はギャングレオ盗賊団の幹部ってところか……!」


 サイバラの実力は本物だ。下手に手加減など考えて、勝てる相手ではない。


「おもしれえ……! やっぱりてめえとなら、久しぶりに"本物の喧嘩"ができそうだぜ……!」

「あん? 何を言って――」


 どうせ喧嘩になるのならば、張り合いのある相手と戦う方が面白い。

 俺は構えを変えて再びサイバラと向かい合った――



◇◇◇



 ゼロラさんがこの店を襲っている? この店をギャングレオ盗賊団が守っている?

 そんな疑問もありましたが、今ゼロラさんが戦っている様子を見て驚きました。

 あのゼロラさんが投げ飛ばされてしまったのです。

 ダメージは大きくないようですが、それでもゼロラさんのほうが押され気味に見えます。

 あのサイ……サイ……グラサン半裸さんは相当強いです。


 ですが、自分はゼロラさんが勝つと思います。

 グラサン半裸さんは完全なパワータイプの戦い方です。

 もし自分が同じ状況なら、パワーで勝負せず――


「フンッ! シュッ! ラァ!」

「この!? てめえ!? ちょこまかと!?」


 スピードで勝負します!

 ゼロラさんも自分の考えと同じように、素早いパンチとキックに回避動作を加えたスタイルで対抗し始めました。


「くそがー!? なんだその動きは!? てめえなんだって、そんなに複数のスタイルを使いやがる!?」

「<キックボクシング>と<ムエタイ>ってスタイルだ。俺は複数のスタイルを使い分ける主義でな」


 ゼロラさんがスタイルを変えてからは一方的な展開となり、グラサン半裸さんの攻撃は当たらず、ゼロラさんの攻撃によるダメージが少しずつ蓄積していきます。

 こうなった以上、ゼロラさんの勝利は固いです!



◇◇◇



「ゼェ、ゼェ。中々やるじゃねえか、おっさん。おれがここまでてこずったのは、カシラと戦った時以来だぜ……」

「カシラ? ギャングレオ盗賊団の頭領か」

「ああ、そうだ。おっさんの実力は確かだが、おれもカシラにしごかれてきたんでね」


 スタイルを変えてからは、俺の一方的な展開に持ち込むことができていた。


 ――だが、何かおかしい。

 俺が当ててきた攻撃のダメージは確実に重なっているはずだが、サイバラには思った以上にダメージが通っていない。


 それにこのサイバラという男……。

 会話に余裕があるところを見ると、まだ"奥の手"を隠し持っているような気さえする――


「余計なおしゃべりはいらねえな。喋る暇があるなら、てめえももうちょっと本気を出したらどうだ?」

「言ってくれるぜ……! お望み通り、おれのとっておきを見せてやるよぉ!!」


 このままだと様子見をされているようで癪だったので、俺は軽く挑発して、サイバラの"奥の手"を誘い出してみた。

 挑発に乗ったサイバラは、全身に力を籠め始める。

 するとサイバラの全身に、電流のようなものが走っているのが見えてきた。

 やはりまだ何か隠していたようだが――


「サ、サイバラの兄貴!? その技は店の中で使うには危ないでヤンショ!?」

「うっせー! ここで負けたら、ギャングレオの沽券に関わるだろうが!」

「い、いや! それ使ったら店の方がまずいでゴンス!」

「せめて外で使ってくださいでアリンス!」


 子分三人が何やら動揺している。

 一体何がどうなるっていうんだ?

 そう考えながら構えていたら、サイバラの張り手が再び襲い掛かってきた――



 ドゴォオオ!!



「こ、このパワーは!?」


 寸前のところで躱したが、その威力は先程までより上がっている。

 張り手がぶつかった壁から聞こえてくる、これまで以上の衝撃音――



「これがおれのとっておき! <電撃肉体強化魔法>だ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る