第18話 乱入

「力及ばずでヤンス……」

「やっぱりこのおっさん、メチャクチャ強いでゴンス……」

「紙一重でアリンス……」

「いや、結構ボロ負けだったからな? お前ら」


 店で用心棒として雇われていたギャングレオ盗賊団の四人のうち、幹部サイバラの部下三人はあっけなかった。

 確かに二年前より腕は上げていたようだが、それでも俺との差を埋めるには至っていない。


「あちゃー。こいつら三人がかりじゃダメだったかー。まあ、これぐらいやってくれねえと、おれも張り合いがねえってもんだ」


 部下三人がやられたのを見て、幹部であるサイバラは特に動揺することもなく感想を述べる。


「えらく落ち着いてるな」

「ダハハ! おれはギャングレオ盗賊団の幹部、"特攻隊長"だぜ? 腕っぷしの強さはこいつらの比じゃねえ!」


 そう自信満々に答えると、サイバラはその場で四股を踏んで気合いを入れる。


「最近は用心棒業でも、盗賊業でも、どいつもこいつも骨が無いやつばっかりが相手で退屈してたんだ。あんたなら、おれを楽しませてくれそうだなぁ……!」


 サングラスの奥で、サイバラの目がギラついたような気がした。

 武器を持たずに構えたところを見るに、こいつも俺と同じく、素手での武術で戦うタイプのようだ。

 放たれる気迫は、確かに子分三人の比ではない――


「なるほど……。てめえが相手なら、俺も本気の喧嘩ができそうだ……!」

「余裕を見せてられんのも今のうちだぜぇ! 覚悟しや――」



 ドンッ!



 俺への宣戦布告をしようとするサイバラだったが、全部言い終える前に店の扉が大きな音を立てて、突然開かれた。



◇◇◇



 ドドドドドドッ!


「逃げないでくれたまえー!」

「逃がしてくださーい!」


 自分は現在、リョウ大神官から逃げるためにセンビレッジの街中を猛ダッシュで駆け回っています。

 と言いますか、この人メチャクチャ速いし、タフじゃないですか!?

 もう結構な距離を走ってると思いますよ!?


「ぐぬぬぬ! ボクの肉体強化魔法を全開にしても追いつけないとは……!」

「こんなことで魔法を使わないでくださいよ!?」


 この人ヤバイです!

 鼻息が荒いですし、目も血走ってますし、魔法まで使って追いかけてくるなんて、捕まったら絶対ひどい目にあいます!


「せめてちょっとだけ! 撫でまわすだけでもいいからー!」

「よーくーなーいーでーすー!」


 『ちょっとだけ』とか、『撫でまわすだけ』とかどういうことですか!?

 もう嫌な予感が全開です! 高名なリョウ大神官が、こんなに変態だったなんて――


「ひぃ~! と、とにかくこのままでは、埒があきませんよ~!」


 こうなったら、もっと人が多いところに逃げ込んで――


「あっ! あのお店! この街で一番大きい、あのお店の中に逃げ込めば!」


 考えている余裕なんてありません!

 自分は目の前にあった、センビレッジで一番大きな店の中に飛び込みました。


「店の中に逃げ込むとは考えたようだけど、そんなのでこのボクを―― ん? この店って確か、ギャングレオ盗賊団がケツモチしてる店だったよね? ……ふむ。ボクが入ると色々面倒なことになりそうだね。おそらくラルフル君は気づいてないんだろうけど……。ま、まあ、多分中にはゼロラ殿もいるだろうし、これ以上は深入りしないのが賢明だよね。よし、戦略的撤退だ。ラルフル君のことはまた別の機会としよう。クフフフフ……」


 後ろでリョウ大神官が何かつぶやいているのが聞こえた気がしましたが、なんとか振り切りました――



◇◇◇



「ハァ、ハァ、ハァ! に、逃げ切れましたか!? た、助かりました~」


 俺とサイバラが睨み合う中、勢いよく扉を開けて入ってきたのはラルフルだった。


「ラルフル!? お前、なんでここに!?」

「あれ? 師匠もいらっしゃったのですか?」


 その『師匠』って呼ぶのはやめろ。

 息が上がっているところを見ると、リョウ神官から逃げ延びてきたのか。


「な、なんだ? この小娘、おっさんの弟子か何かか?」

「弟子じゃねえよ」

「小娘じゃないです! 自分は男です!」


 ラルフルの突然の乱入に呆気にとられるサイバラ。

 さっきまで一触即発だった空気が、一瞬で冷めてしまった。


 いや、それよりもラルフルに俺の仕事を見られてしまったか――


「えーっと……坊主? で、いいんだよな? おれはこの店の用心棒で、今店を襲ってきたこのおっさんの相手をしてて、取り込み中なんだが……」

「え……え? し、師匠が……この店を襲ってる……?」


 突然乱入してきたラルフルに、サイバラは混乱しながらも状況を説明する。


「ほ、本当なんですか……?」

「……本当のことだ。これが俺の仕事だ」


 詳細までは分かってないのだろうが、おおよその事情をラルフルは理解したのだろう。

 俺のことを不安そうな目で見つめてくる。

 こいつにだけは知られたくなかった……。


「……サイバラだったな。ちょいと水を差されちまったが、こっちは仕事の続きをさせてもらう」

「……フン! あんたの事情なんてこっちも知ったこっちゃねえ。俺はこの店を守る。ドーマン男爵の手先なんかに負けはしねえ!」

 どのみち、今の俺は引き下がれない。

 俺もサイバラも構えなおし、お互いに臨戦態勢に入る。


「ゼロラさん……」


 そんな俺達の姿を、困惑しながら眺めるラルフル。

 ラルフルには軽蔑されるだろうが、今の俺がすることは、目の前の仕事をこなすだけだ。


「来いやぁ! このギャングレオ盗賊団特攻隊長、サイバラ様が直々に相手してやるぜぇ! ゴッツ・アン・デス!!」

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