第12話 最悪のタイミング
ドーマン男爵邸を後にした俺は目的の酒場にはすぐに向かわず、川辺で寝そべっていた。
「……飯でも食うか」
俺はマカロンからもらった弁当を開けて中を見た。
パンに野菜に肉類がバランスよく収まっている――が、中身が仕切られることなく入っていたせいで、混ざり合って大変なことになっている。
「はぁ……。中身は分けて入れてくれよ……」
マカロンの料理はそれなりにうまいのだが、盛り付けに難がある。
それでも有難いことに変わりはないので、いただくことにする。
「モグモグ……。しっかし、気乗りしねえなぁ……ホント」
ドーマン男爵の思惑はおおよそ理解できる。
町で一番大きな酒場の利権を自分が手にすれば、それを足掛かりにしてガルペラ侯爵の統治を揺るがすこともできる。
俺は今のセンビレッジの在り方が好きだ。
様々な人や物で賑わう街は、見ているだけで楽しい。
俺としてはガルペラ侯爵の統治が続いてほしいのだが……。
この後の依頼の結果がどうあれ、ドーマン男爵は頃合いを見て俺を切り捨てに来るだろう。
もしそうなっても、俺は返り討ちにできる自信がある。
問題はドーマン男爵がガルペラ侯爵から統治権を奪った後に起こりうる事態だ。
センビレッジは今のような賑わいを、失ってしまうだろう。
だからといって今ここで依頼を断ってしまえば、イトーさんの方に迷惑がかかってしまう――
「もうちょっと身の振り方を考えねえとなぁ……うん、混ざってるけど旨いな」
俺は現状への苛立ちを感じながらも、弁当の味を堪能していた。
マカロンの弁当は旨い。
これで盛り付けもしっかりしてくれれば、言うことなしなのだが……それは流石に贅沢か――
ボォウ!
――そんなことを考えていると、突然火の玉がこちらに飛んできた。
俺には直撃しなかったが――
ボチャン――
「ああ!? べ、弁当が……」
――マカロンからもらった弁当に火の玉が当たって、川に落ちてしまった。
火の玉が飛んできた方角に目をやると、四人の男が一人の少女を取り囲んでいるのが見える。
男の一人は魔法使いのようだ。あいつの魔法がこっちに流れてきたことは想像に難くない。
「……流石に我慢の限界だ」
朝から絡まれ、現在に至るまでの今日一日の苛立ちで、俺の中の何かが切れてしまった。
◇◇◇
「や、やめて……! やめてください……!」
「うっせえ! "勇者パーティーの落ちこぼれ"が、グダグダぬかすんじゃねえよ!」
「くっそぉ! 折角貴族の仕事を横取りできると思ったのに、あのおっさんのせいでよぉ!」
いつも自分を虐める四人の冒険者は、自分に対して怒りをぶちまけるように暴力を振るってきました。
「ひっく……。じ、自分は……関係ないです……!」
「んなことはどうでもいいんだよ! 大人しく俺らに殴られやがれ!」
人通りの少ない川辺の橋の下で、冒険者の皆さんは"いつものように"自分をストレスの捌け口として、暴力を振るい続けてきます。
「まったく君たちはしょうがないね~。それより、早くそのおっさんを倒しに行かないか~い? そのためにぼくを呼んだんだろ~?」
「分かってるよ! ペッ! 弱虫ラルフルが! また腹が立った時には、サンドバックになってもらうぜ!」
「ひっく、ひっく……!」
自分の名前はラルフル。
弱くて泣き虫だから、いつもこのように特に理由もなく乱暴な扱いを受けています。
これからもそれに耐えて生き続けていくしかないと、そう思っていました。
「男四人で女一人をボコるとは、最低な野郎もいたもんだなぁ……!」
そう、あの人と出会うまでは――
◇◇◇
俺は虐められている一人の少女のもとに駆け寄った。
少女は四人の男達によってボロボロになるまで暴行を受けていた。
胸糞の悪くなる光景だ。理由は分からねえが男四人が寄ってたかって女一人を殴る奴らを、俺は見逃せない性分みたいだ……!
「嬢ちゃん、大丈夫か? しっかりしろ」
「に……逃げて……ください……。ゲホッ!」
ひどいケガだ。体中痣だらけで、かなり苦しそうに咳き込んでいる。
――これは俺個人として、許すわけにはいかないな。
そう思いながら、俺は四人の男を睨みつける。
「てめえらぁ……! なんでこんなことをしやがった!?」
「ハンッ! 俺らはただストレスを発散して――って!? てめえはさっきのおっさん!?」
『さっきのおっさん』?
その言葉を聞いて男達をよく見ると、四人のうち三人は朝イトーさんの店で俺に絡んできた冒険者の連中だった。
「なるほどな……。俺にボコられた腹いせにこんな嬢ちゃんをボコってたって訳か……。つくづくクズだなぁ、てめえらはよぉ!」
俺はクズ共に向かって行く。
さっきのような手加減は無しで、最初から全力でブチのめしにかかる覚悟だ。
「くぅ!? ま、またやるってのか!? だが、今回はこっちに助っ人がいるんだぜ!」
「へ~。このおっさんが君たちの言ってた人なんだね~」
さっきの三人とは別の魔法使いの身なりをした男が語りかけてくる。
こいつがさっき俺の弁当を台無しにした魔法使いか!
「おい、魔法使いのガキ。てめぇさっき、火の玉の魔法を使っただろ?」
「んぅ? ああ、ラルフルを虐めるのに使ったね。それがどうかしたのか――」
「てめぇのせいで俺の弁当が台無しになっちまったじゃねえかぁあ!!」
ボコォ!
バチャーン……
俺が怒りのままに振りぬいた拳は魔法使いの顔面に直撃し、そのまま魔法使いは宙を舞って川に飛び込んでいった。
「……え? あ? へぇ!?」
「ちょ、ちょっと待て!? パンチ一発で、人があそこまで吹っ飛ぶものか!?」
「う、うそだろ……!? 冗談じゃねえ!!」
残った三人はその光景を見て及び腰になる。
だが、もう遅い!
「逃げんじゃねぇぞ……! てめぇら全員さっきの奴と同じ目に会ってもらうぜ……!」
普段ならここまで徹底的に痛めつけることはなかっただろう。
だが、今回はタイミングが悪すぎた。
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