第39話 中立者

「青の教団」分離主義勢力による襲撃。彼らの狙いは、″守護者″そのもの…


「守護者を始末しろ!!」


武器を構えた襲撃者たちは守護者を狙うが、彼を警護していた″ランスロット騎士″達に、阻まれていた。


「くそっ!ランスロット騎士団めが!」


騎士達の巧みな連携と反撃により、数で勝る分離主義者たちは、まるで歯が立たない状態。


「…守護者様!こちらへ!」


騎士達が襲撃者の攻撃を防いでいる間、同じく″守護者″警護任務に就いていた″王室付き魔道士″のソフィア・ニコラウス。彼女が守護者を誘導していた。


「…守護者を逃がすな!!」


襲撃者の一人が、大剣を振りかざして突進してきた。ソフィアは″風術魔法″を使い、砂埃やら倒壊した建物の破片やらが混じった激しい

″粉塵″を、襲撃者の眼前に引き起こした。


「ぐわぁ!!目がぁ!!」


襲撃者は、両目を押さえてその場に蹲る。


…″以前″のソフィアならば考えられないような、″控えめ″な攻撃だった。


…魔法の戦闘利用を禁じた「魔法抑止法」によって、平時では魔道士が攻撃目的で魔法を使うことは禁じられている。

しかしそれは、″正当防衛″目的の際には該当しない。ましてや今は、国の″最高権威″たる守護者の身に危険が迫っている状態だ。

…いかに魔道士といえども、今は魔法を積極的に使って敵を完全無力化すべき時であるし、違法性もない。


…なのにソフィアは、どこか躊躇っているようだった。


(…殺さないように、しないと)


…以前ソフィアは、極めて短絡的な感情で、市民を魔法の力で傷つけてしまった。

…それがソフィアにとって、ある種の″抑制心″を生じさせている。



殺しては、駄目だ。



その抑制の心が、ソフィアの反撃行動を控えめなものにさせていた。


いかにソフィアが優秀な魔道士とはいえ、守護者の身に危険が迫っている現状において、それは悪手でしかなかった…



「死ねぇ!!」


鉄の棒を振り翳す大柄の男。

ソフィアは、男を″殺さないよう″無力化しようとした。

彼女は男の両足目掛けて、″雷撃″を浴びせた。


両足に衝撃を受けて、男は悲鳴あげる。…だが、男は力を振り絞って、ソフィアに向かって思い切り飛び込んできたのだ。


「くっ…!」


全体重を乗せた男の渾身のタックルに、ソフィアは吹き飛ばされる。

男はそのまま、ソフィアを自らの体で押さえつけて、彼女に殴りかかろうとしていた。


(まずい…やられる!!)



その時。


鈍い音がソフィアの眼前で聞こえた。


やられたのは、ソフィアではなかった。



「守護者、様……」


守護者が……棒を手にして、襲撃者の後頭部に思い切り打撃を加えたのだ。

後頭部に激しい打撃を受けた襲撃者は、その場で倒れ込む。


「…ソフィア。無事か……?」


守護者が、地面に倒れ込んでいるソフィアに、手を差し伸べる。


「…申し訳ありません!守護者様…!!

貴方様を守らなければならないのに…!

よもや私が、助けられることになるとは……

守護者様のお手を煩(わずら)わせることに……!」


ソフィアが謝罪する。…しかし守護者は、特に意に介していないようであった。


「…気にするな、ソフィア。別に手を″煩って″などいない。

…私を守ってくれている魔道士に、危機が迫った。…だから、助けた。

…それだけのこと、だ……

仕える者を見殺しにすれば、それこそ″守護者″と名乗る資格など、ありはしない。」


真摯とした守護者の言葉に、ソフィアは何も言えず、しかし表しようのない胸の″高鳴り″を覚えた。

この高鳴りは、守護者への尊敬の感情なのか、あるいは別の感情なのかどうかはわからないが……

ともかくソフィアは、守護者の手を取って立ち上がる。


彼女はそれでも、守護者を守りきれないのではないかという自信のなさが、その瞳に現れていたようだった。

守護者は、その彼女の″不安″を察知し、励ましとも叱咤とも言えない言葉を、かける。


「…ソフィア。私は今、お前の命を助けた。

…ならばお前も、私の命を助けるのだ。

…それで、おあいこだ。


…今は躊躇うなソフィア。


命を失えば、終わりだ。


今は生き残ることを、考えなければならない。

私がお前を守ろう。だからお前自身も、私を守ってくれ。」


この言葉が示すこと。

それは主従の関係、などではない。


お互いがお互いを守り、助け合う。

それはつまり、″対等″な関係だった。

守護者が、それを望んだ。


「…私も共に戦うぞ、ソフィア。

今は生き残るために、な。」


普通ならば、″守護者″が戦闘を行うなど、あり得ない。

しかし、自分の身は自分で守る。

守護者にとっては、少なくとも″これだけは″譲れない。


彼は「何もしない」「何も出来ない」人形などでは、決してないのだから。


…守護者の意志を理解したソフィアは、だからこそ守護者に、背中を預けた。

…守護者の意志を尊重すること。…それこそが、″守護者″への忠誠の証、と言わんばかりに。


すべからくソフィアも…守護者の意気に、幾分か勇気付けられた。


そして同時に、彼女の中でもまた、″その″意志は強固なものになったのだ…


(…そうだ。守護者様は、絶対に守る…

何が、あっても……!!)



守護者が見せた強さは、ソフィアを強くさせていた。











ランスロット騎士団団長のグレンヴィル。

そして副騎士団長のオードリー・ファジェットは、アンバー・フェアファックス率いる

″シュヴァルツ騎士団″の猛攻を受けていた。


「……くっ!」


オードリーを狙い、シュヴァルツ騎士3名が巧みな連携で、彼女に攻撃を仕掛ける。


騎士団員の戦闘力は、分離主義者達とは比べ物にならない。


オードリーは、騎士達の攻撃を冷静にさばき、その剣の軌道を逸らすように防いでいたが、″仕留める″のには時間がかかった。


(…シュヴァルツ騎士は強敵…

…やむを得ない!)


オードリーは極力殺生を好まない……が、しかし。相手は実力者達だ。

生半可な気持ちでは、こちらがやられてしまう。


(…殺すのは気が引けるけど…仕方ない!)


オードリーは、シュヴァルツ騎士達の攻撃を防ぎつつ、防戦一方のように見えたが……

騎士団長たるグレンヴィルと同様、彼女の戦闘スタイルも、「防御しつつ、敵の隙を突く」というものだった。



(…………そこだ!!)


オードリーは、シュヴァルツ騎士の剣を受け止め、その相手の重力を利用し、相手の攻撃が横に逸れるような″軌道″を誘導した。


「………!!」


力を″受け流された″シュヴァルツ騎士は、大きな隙を作った——それは、素人にはわからないほどの僅かな″隙″なのだが、熟練者にとっては、充分すぎるほどの″チャンス″そのもの。


「ぐはぁっ!!」


そしてオードリーの剣が、シュヴァルツ騎士の胴体を斬り裂いていた。


「くそっ!」


オードリーを囲んでいたシュヴァルツ騎士2名が、一旦後退する。…だがオードリーは騎士達と距離を詰め、その迅速な動きで剣を振るう。

一太刀目は防がれたが、オードリーはすかさず再度剣を振るった。


シュヴァルツ騎士がオードリーの剣を防ごうと剣をかざすが、その攻撃は、オードリーのフェイントだった。

彼女は、横一閃の軌道を描いていた剣の軌道を変えて、刺突の動きを取っていた。


シュヴァルツ騎士は回避しようとしたが、オードリーの剣のスピードには勝てず。

そのまま胴体を貫かれた。


そしてその剣の流れるままに…

3人目のシュヴァルツ騎士も、オードリーに仕留められる。





… 一方のグレンヴィル騎士団長。彼も無類の強さを発揮していた。


彼は5人のシュヴァルツ騎士を同時に相手にしていたが、四方八方からの剣を防ぎ、その軌道を逸らしながら、敵の側面に回りこみ、確実な一撃で″始末″する。


その守勢に回ったうえでの、確実な反撃による″制圧″こそが、彼の戦技。


守って、逸らして、隙を突く。その地味だが単純で、忍耐を要する戦い方は、グレンヴィルの肉体的、精神的強度の頑強さを示すもの。


彼は、無駄な攻撃はしない。


不必要な攻撃は、相手に付け入る″隙″を与えてしまう。相手の″隙″を突くことが得意なグレンヴィルは、自らが″隙″を作り、″致命的″な反撃の機会を与えることの危険さをよく知っている。…故にグレンヴィルは、″迅速″に″大量″に敵を制圧するタイプではなく、時間をかけて、しかし″確実″に敵を始末する。

そういう戦い方をする騎士であるのだ。


そしてこれまでと違わず、その独自の戦闘様式によって、シュヴァルツ騎士一人を始末し、また残敵の攻撃を防ぐ。

…そして、僅かな隙が生じた際に、致命的な一撃を与える。

その丁寧だが無駄のない戦い方で、グレンヴィルはあっという間に、5人のシュヴァルツ騎士を仕留めた。


「…さすがはグレンヴィル騎士団長。

本気を出せば、シュヴァルツ騎士の一人や二人、相手にはなりませんのね…」


シュヴァルツ騎士団の団長、アンバー・フェアファックスは、グレンヴィルに賞賛の声をあげる。


「…私はいつでも本気だ。フェアファックス。…出来れば殺したくはないのだが、そちらが殺意を隠していないようなので、こうせざるを得ない。

…私とて、本気で殺しにかかってくる騎士相手に、手加減しながら戦うのは骨が折れる。

…フェアファックス。どういう理由であれ、我々の邪魔をするなら、貴方とて排除しなければならない。」


グレンヴィルの言葉に、フェアファックスは恍惚とした笑みを浮かべる。


「…まあ。そう言ってもらえて、嬉しいですわ……

そう…″本気″で殺しに来てください…


そのほうが、あなたに相応しいですわ……


10年前の世界大戦…その後に起きた″騎士団の内紛″……あなたはその時、大勢の騎士団員達を殺したと、聞きます。

私はまだ幼かったので、騎士団の人間ではありませんでしたが…」


「…何が言いたいんだ?」


淡々と語り続けていたフェアファックスに、グレンヴィルが刺々しく言い放つ。


「…いえ。私が言いたいのはつまり…

自分を偽って生きるのは、もうやめにしましょう、ということです…

あなたはあの″内紛″の時、騎士団員のメンバーを大勢殺しましたね…

その戦いっぷりは、まさに″悪鬼″のごとく苛烈であったとか……


そう、それがあなたの本性です。


ならば″不殺″などというくだらない信条など捨てて、本能の赴くままに、戦えばよろしいのでは?」


淡々と語り続けるフェアファックスに、しかしグレンヴィルは冷静さを欠くことはない。


「…昔の話、だ。

たしかに私は、″極力″殺したくはない。民はもちろんのこと、同胞である騎士団のことも、な…


…しかし… 一応言っておくが……私は理想主義者でも、ないぞ?


どちらかと言えば、現実主義者だ。

必要とあらば、仲間でも殺す覚悟は出来ている。…そう、これは″覚悟″の問題だ。


然るべき時に″躊躇″せずにことを実行出来るか…

少なくとも私は、その点において覚悟は出来ているつもりだ…」


「…では、あなたの理想とは何なのです?

あなたは騎士団でも″中立派″として、我々″強硬派″にも付かず、だからと言って″穏健派″に付くこともない…

そんなどっち付かずの態度が、許されるとお思いですか?」


責め立てるようなフェアファックスの言葉にグレンヴィルは……どこか失望的な暗い声色で、言葉を返す。


「…私は、守護者や大神院に対して敵対的なお前達″強硬派″にも付かないが、だからと言って大神院に忠実な″穏健派″に賛同しているわけでもない。


…なぜだか、わかるか?


そのどちらも、″自分だけが正しい″としか思っていないからだ。


お互いに、″対話″をする気がない。


対話をしても無駄だ、と思っている。


…私は、騎士団が一つにまとまって欲しいのだ。

″派閥″を形成して、お互いに対立して欲しくはない。


…私がどちらかの″一派″に付けば、それこそ対立を加速させてしまう…

だから私は、どちらにも付かない」


グレンヴィルの、どこか悲痛とも言える言葉を、しかしフェアファックスは笑って一蹴する。


「…なるほど。

グレンヴィル騎士団長。だからあなたはそんなにも…″中途半端″なのですね?


騎士団が一つにまとまって欲しい。


口ではどんな立派なことを言っても、結局自分の力だけではどうにも出来ない。


どうにも出来ないなら、″何もしない″。


…それは、一番卑怯な人間ですわ。


だってそうでしょう?

あなたはただの″傍観者″ですものね?」


フェアファックスの言葉を、しかしグレンヴィルは否定もしない。

むしろそれは、自分でも痛いほどにわかっていた。


「…そうだ、お前の言う通りだよ、フェアファックス。

私は騎士団の対立において、何もしなかった。

…何も、出来なかった……」


だからこそ彼は、現実主義者なのだ。

何も出来ないなら、何もしない。


守りに徹して、機が到来したら行動する。それだけの、存在……


「…だが、私のどっち付かずの対応は、スペンサー卿を怒らせたのかもしれないな。

だから、我々ランスロット騎士団を始末するために…お前が寄越されたのだろう?」


グレンヴィルの問いに、殊更隠したてることもなく、フェアファックスは頷く。


「…理解して、くださいませ。

…中途半端な態度の人間は、結局…

全員を敵にまわすことに、なるのですからね!!」


フェアファックスはそう言うと、猛烈な速さで地面を駆け出した。

およそ6メートルほどは離れていた距離を、一瞬で詰めてグレンヴィルに接近する。


次の瞬間、目に止まらぬ速さの彼女の拳撃が、グレンヴィルの喉元へ放たれる。


「————っ!!」


グレンヴィルはギリギリのところで、その拳をかわした。フェアファックスの拳が、僅かに頬をかすめる。頬をかすめ、致命傷を避けられたが、グレンヴィルの頬からは血が流れ出す。その極めて″鋭利″な彼女の拳撃……

もし喉元に直撃していたら、即死は免れなかっただろう。


フェアファックスは、グレンヴィルに休む間も与えず。次の攻撃を見舞う。彼女は拳を振るった体勢と勢いのまま、空中で回転し、その回転力を利用した跳び回し蹴りを放つ。


剣での防御姿勢が間に合わなかったグレンヴィルは、それを左腕で受け止める。

蹴りを受け止めることは出来たが、グレンヴィルはそのまま蹴り飛ばされた。防御姿勢のまま吹き飛ばされた彼は、無造作な姿勢で地面に転がった。その打撃の威力は、小柄なフェアファックスからは想像できないほどのパワーだった。


「ぐっ……!」


グレンヴィルは転がった拍子、すぐに体勢を立て直し応戦する。

フェアファックスは、スライディングするように滑り込み、グレンヴィルに接近。


(…足払いか!?)


グレンヴィルは、後退してフェアファックスの足払いを躱す。

しかしフェアファックスはそのまま、両手を地面につけて、腕の力を利用して——バネのようにその全身を跳躍させる。

そしてそのまま、グレンヴィルの胴体に、自らの長い足を巻きつけた。


「く……!」


フェアファックスの″胴絞め″によって、両腕までもが絞めつけられ、今のグレンヴィルは——まるで大蛇に全身を締め付けられるかのごとく、一才の身動きが取れなかった。

両足で強力に締め付けられ、腕の感覚がなくなっていく。グレンヴィルの右手に握られていた剣が手からこぼれ落ち、地面に落下する。


「…グレンヴィル様。あなたは守備に徹した長期戦を得意としているようですが、そうはさせません。

…ふふ。ここまで密着されたら、どうすることもできないでしょう?」


「ぐぅっ……!!」


ギシギシと、胴体を締め付ける力が強くなり、グレンヴィルは胃や肺が圧迫される苦しさを味わう。息が出来ず、まるで口の中から内臓が飛び出てきそうなほどの苦しさだった。


「…本当に、殺すのは惜しいですわ……」


両足でグレンヴィルを捕らえたまま…耽溺としたような甘い声で、フェアファックスが彼の耳元でささやく。


グレンヴィルは相当な実力者だが、単純に、グレンヴィルを上回るスピードの相手には、長期戦を挑むのは悪手である。

なによりフェアファックスは、徒手空拳という戦闘スタイル。接近戦に持ち込まれて絞め技に入られると、もはやグレンヴィルには——彼に限らずだが、武器を使用し戦うほとんどの騎士は、打つ手がないだろう……


「…グレンヴィル様。これは、最後のチャンスですわ。

命乞いして、わたくし達の仲間になりませんか?…もう″中立″はやめて、はっきりと意思を明確にしましょう……」


「はぁ…!はぁ……!

私に″強硬派″に加われと…?

それは……スペンサー卿の、意思か…!?」


絞め技をかけられながらも、声を絞り出すグレンヴィルに、フェアファックスは恍惚な笑みを浮かべて、言葉を返す。


「…いいえ。″わたくしの″意思ですわ。


…貴方を、仲間にしたいのです。


…大丈夫。スペンサー卿ならば、あなたを受け入れてくれます。

あなたは、優れた騎士ですもの……」


まるで、求愛の告白のようにグレンヴィルにささやきかけるフェアファックス。


…だがグレンヴィルは生憎、彼女の″誘い″を受け入れるつもりなど、毛頭なかった。


「…残念だが、その誘いを受け入れることは、出来ないな……」


彼女の誘いを断るグレンヴィル。

フェアファックスは至極残念そうに、溜息をついた。


「……そうですか。

残念です。…貴方はそのまま、″中立者″でいることを望むのですわね……

何も、変わることなどないのに…」


そう。何も変わることはない。

それどころか″騎士団″はすでに、ほぼ″強硬派″が組織を掌握している状態。


エストリア騎士団副団長のキーラ・ハーヴィーにアンバー・フェアファックスと……

全騎士団の中でも最精鋭が、ほとんど強硬派の先鋒になっている以上…

もはや騎士団″穏健派″は、虫の息も同然なのだ…


「…ではグレンヴィル騎士団長。

非常に残念ですが、どうぞここで死んでいただきます…」


フェアファックスはそう言いながら、足に力を込める。

胴体を締め付ける力が、更に強まっていく。


「………っ!!」     


それはもはや、息すら出来ないほどの強い締め付けだった。


万策尽きかけた時。


フェアファックスに向かって、一筋の斬撃が放たれた。


…しかしその攻撃の正体は、当然ながらグレンヴィルではない。


「オードリー!!」


「騎士団長!無事ですか!!」


グレンヴィルが止めを刺されそうになっていた間一髪のところ…

グレンヴィルの腹心。ランスロット騎士団の副騎士団長、オードリー・ファジェットが加勢に入った。


フェアファックスは、オードリーの斬撃をかわすが……″邪魔″をされて、苛立ったように、オードリーを睨みつける。


「…せっかく良いところでしたのに…

邪魔しないでいただけますか?

オードリー・ファジェット……」


「…相変わらずのフリフリ衣装ね。フェアファックス。

そんな格好で戦場に出る人間なんて、あなたぐらいでしょうね…」


挑発するようなオードリーの言葉に、フェアファックスは眉間に皺を寄せる。


「…何?怒った?

そんな怖い顔してると、せっかくの可愛い顔が台無しよ?」


「…軽口を叩けるのも、今のうちですわ。

まずあなたから先に、葬ってあげましょうか?」


グレンヴィルは、二人がやりとりをしている間。必死に息を整えて、再び剣を取る。


「…助かった、オードリー」


「…いえ。

間に合ってよかったです」


グレンヴィルとオードリーは、武器を構えながら、フェアファックスと相対する。

フェアファックスはグレンヴィルを仕留め損なったが…いずれにせよ、やることに変わりはない。

グレンヴィルもオードリーも、まとめて仕留める。



「…仕方ありませんわ。

二人まとめて、始末しましょう」

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