Black Sheep

亜蘭炭恣意

1. Black Sheep

0.

 オレ達が何をしたと言うのか。


 生きる為に、物を盗んだ。けれどそれは、お前達だってやっている事だ。

 生きる為に、体を売った。けれどそれは、お前達だってやっている事だ。

 生きる為に、金を稼いだ。けれどそれは、お前達だってやっている事だ。

 何が違う。何が違った。何が悪かったのか。

 何が良くなかったのか、何を間違えたのか、オレには分からない。


 ――目の前で家族が殺される。


 豚や牛と同じように吊るされ、解体機に呑まれた彼。

 集団に犯され、男の欲望を喉に咥えたまま、窒息死した彼女。

 男達に代わる代わる一昼夜、骨格が歪むまで殴られ続けた彼。

 四肢を切断され、玩具にされた後に、川の中へ投げ込まれた彼女。

 全身の骨を一本ずつ折られ、泣き叫びながら死んだ彼。

 尻の穴まで犯され、内臓を掻き出されて野晒しになった彼女。


 ――皆の声が聞こえる。怨嗟えんさの声、憤怒、憎悪、泣き声、悲鳴。


 オレは見ているしかなかった。オレは見ているしかなかった。オレは見ている事しか出来なかった……!

 亡骸を抱いて、「済まない」と詫びる事しか出来なかったんだ……!


 いくら祈っても、神がオレに答えてくれた事はない。

 何度身が裂けるほどに叫ぼうが、それこそ貴方あなたはお構いなしなのだろう?

 ならば、もはや貴方に捧げる言葉はない。

 地に堕ちる。悪意には悪意を。暗闇に沈み、掴んだ刃を振るう。

 差し伸べられた手が、黒い泥に塗れていたとしても、

 そうした事を、誰もが間違いだと指差すけれど、

 オレにとってすれば、「何も出来なかった」自分自身こそが最も罪深い悪だった。


 ……嗚呼、だから、そう――、

 ようやく手にしたチカラで家族を守れるなら、自分がどうなろうと構わなかった。

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