第20話 困惑

 この場にいる人たちは思考を停止しているのだろうか。

 皆テーブルに視線を落として、ページをめくることも息をしているかどうかも怪しいほど沈黙している。

 一人が声を漏らすように口を開いた。


 「ちょっと待って欲しい。まあ異論はないのだが、というか対案も何も浮かばない。今まで考えてもいなかったことだから困惑しているというのが正直なところ本音ですね。

 我々は政治家で自治体の首長をしてきたからよくわかるが、地方なら実現可能かもしれないが国政となると難しいのではないだろうか。

 政権を握って法案を提出審議をしなければならない。つまり選挙で勝った与党でしかできないことだ。

 しかも圧倒的な支持があってこその力業になる。

 それを我々に説明してどういうつもりなのか」


 その他の面々もうなずいた。


 「それはもう理解しているとばかり思っていましたが、僕の口から出ないと皆さんは自分から言い出さないとは責任回避する常套ですね。

 役所出身で知事になる方も多いですから、そういった公務員体質は僕も理解できます。個人では責任を取ることはできませんから。

 責任は自治体のトップがとるものですからね。

 僕も中央の意向に従って治めてきましたが、代わりに無理をきいてもらい優先してもらったこともありました。

 自治体のトップはある意味大統領のようなものです。総理より個人の意向が反映しやすい立場ですから。

 でも中央の意向に反してまでやりませんよね。皆さんの出身母体ですから。

 交付金の減額というペナルティーもありますし。

 いいなりになる代わりに約束された知事という役職におさまったんですから。

 もちろん僕も同じですから何も批判できる立場ではありません。

 しかし僕は皆さんと世代が大幅に若い時代を過ごしてきました。

 一番苦しい時代と言ってもいいかもしれません。

 だから真剣に考えているのです。

 今回のことで皆さんは知事を失職しました。

 国土は半分になりましたから代議士の多くも同じことになりました。

 たぶんですが選挙はどの候補者も全国区での戦いになると思います。

 もちろん地元がある候補は有利でしょうが、我々のような政令都市を抱えた知事が選挙に出れば勝つことが可能です。

 公約はこれらの案が下敷きになりますから衝撃を与えることでしょう。

 賛同してくれる候補者が集まった時に政党としてスタートします。

 今現在はただの政策グループとして公表します。アメリカとの約定も一部は公にします。

 皆さんにはこれまで培ってきた人脈を全て使って選挙に勝つための協力体制をお願いしようということです。

 もちろん考えがそぐわない等の理由で共に行動できないのあれば引き留めはしません。

 足さえ引っ張らない限りこちらからは関与しません。

 一応言っておきますが、アメリカとは擦り合わせが済んでいます。

 あちらがどう思って行動するかは僕にはわかりませんけど」


 「それは脅しということになりますかね」


 「まさかまさか、ただ頭の良い皆さんが間違った選択はしないと思っているだけです」


 「わかった、最後まで話を聞いてから結論をだす」


 「それでは話を続けます」


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