第10話 東京
ロシアが侵攻行動を完了したことは各国がすぐ知ることになった。
すぐさま中国がこの機に行動を起こした。
日本への味方ではない。
まさかの台湾と尖閣諸島への侵攻と占領を始めた。台湾への行動は以前から危惧されていて、早くても2年以降と予測されていたが、沖縄のアメリカ軍がロシアに対応するために手薄となっていた隙だった。
当然台湾海峡で衝突が始まったが、アメリカ軍の脅威がない戦いなど中国の一方的な展開となった。
どさくさに尖閣も実効支配して領海を広げようとした。
しかもそれに北朝鮮が同調して、ミサイルを日本に向けて発射した。ミサイルは日本の迎撃体制が機能してくれたが、示し合わせたかのように韓国が竹島の占領と領土宣言と北朝鮮との統一を目的とした合同軍事行動を起こした。
韓国の駐留アメリカ軍は大幅に削減されていたことも要因であったが、政権内部の問題が大詰めになっており、起死回生の愚行であった。
日本海に韓国軍の艦船が侵犯し、九州に上陸する機会をうかがっていた。中国の優勢が確定したら速やかに行動する手はず。
もちろんアメリカをはじめとする西側諸国は国連で非難をし、世界大戦の危機を回避しようとした。
常任理事国の三国が当事者ということで国連は全く機能しなかったのは当然のことだった。
日本は政治機能が壊滅状態になっているため、自らの行く末を他国にゆだねるしかない状態であった。敗戦国に再びなってしまった。
関東は日本の地理的に中心であり、あらゆることが集中していたので、国が真ん中から二つに折れたのと同じ、国力のほとんどが消えてしまった。
現実的に東京は見捨てられてしまったことだ。
しかし紛争前に現地で救援活動していた自衛隊はそのまま残っていた。
近年の自衛隊は人員が慢性的に数千人単位で不足していた。昔なら直接高校などに出向きリクルートできていたし、個人宅に赴いたり、各支部に招いたりすることができたが、それらが禁止された。
おりからの少子化の影響があることはもちろんだが、不景気には自衛隊という考えは薄れてきていた。規律の厳しさと相変わらずのパワハラの横行、震災が多いゆえの厳しさ。
東北の震災後に自殺した隊員も少なくないという。震災でなくてもパワハラでの自殺は多い。
若者は小学生の頃からネットで情報が得られる。昔でなら簡単に知ることのなかった社会の闇の多さに気づいている。
自衛隊を辞めたあとの再就職の良さは昔の話である。
逆に今の隊員は意識が高いともいえる。
ブラックな組織はどこも敬遠されるが、国家公務員、地方公務員も同じようで。最近は役場や保健所の残業は過労死並みだという。
ただし必死に採用試験の勉強をしたゆえか、辞める決断はできないで病む一方だと。病んでいるからまともな公僕意識は薄れ、保身ばかりにはしる。
東京で救援活動をしていた自衛隊員も国のためという大義より、目の前の人々に対して自分らに何ができるかを考えるという思考になっていた。
一斉に起きた外国軍の侵攻と重なった首都圏の災害。今から遠くの戦いに参加するより、自衛隊という組織が存続するかぎり活動しようとなった。もちろん現場の指揮官の決断であった。
東京の被災した人々も日本が侵攻されたことを知ることになる。
直後は驚いたが、知ったとしても自分らの生活にだけ関心があり、国というものがどうなっていくかは考えがいかなかった。もちろん情報が圧倒的少なく、東京が標的になっていないことだけを確認して安堵しているだけにすぎなかった。
冷静に考えれば、国が災害救援をすることが困難となったのは明白。すると東京はいったいどうなるのかという不安がしだいに広がっていった。
丸山家と大竹もそれらの情報を知っていた。
電気とテレビ、ラジオは放送を始め、スマホやネットも一部だがつながるようになった。
ただし番組はニュースと再放送の繰り返し。広告も不謹慎な内容というより、食欲などを刺激するようなものは排除されていた。まともに食べれないのだから当然だ。
飲料水は絶対的な不足が続いていて、電気があるので一部の地下水がでるところから供給されているが、各自が制限された量を歩いて持ち帰るのみ。
地下水が近くでなんとか歩いて行ける人はまだいい。往復に何時間もかけて二リットル程度しか得られない地域もある。地下水は低地で掘られているから、台地の人は更に大変な労力になっている。
泥で困難な道のりであっても生きるために皆必死になっていた。
丸山家は幸いに大きな病院の地下水をもらいに片道1時間程度でなっていた。保存していた水のペットボトルの空き容器を一人二本を抱えて毎日行くのが午前中の日課になっていた。
食料は自衛隊からの配給が始まっていたので、少量であったがカロリーだけは賄えてた。
しかし紛争が始まると配給が止まることが予想できた。自衛隊の糧食も同じだ。
丸山家では食事の回数を二回にし、量も少なくすることにした。
救援が見込めないことがはっきりしたので、いよいよ厳しい現実に直面した。
救援まで我慢していれば必ずなんとかなるという希望が崩れた。
テレビでは東京脱出している人達がいることを報道していた。
最初は周辺の人たちが動き出し、それを知った人たちが連鎖して次々と向かっているようだ。
ほとんどが北へと向かっている。国道四号なら平たんで、途中から交通機関が動いているので乗っていくという。仙台までたどり着けば、企業の支店などがあるのも理由の一つらしい。
一部は山を越えて日本海側に向かう人、群馬を抜けて軽井沢、福島の山間部も少なくない。食料事情が関係しているか、親戚知人を頼ってのことのようだ。
丸山家の話し合いでも脱出が検討されていた。
旦那さんが単身赴任しているのは仙台だということ。八戸は僕の実家がある。丸山さんの実家は北海道。
やはり全員で仙台に向かうことが決定された。
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