第3話 悪魔との邂逅

ズジャー…ッ


「ついたよ」


辿り着いたのは山の中だった。

やっと脇から解放され地面におろされる。

あまりの速さに目が回ってしまい、足どりがおぼつかない。

しまいには足が絡まってよろけてしまった。


「大丈夫?」


ニコルは倒れかけた僕を支えた。


「ありがとう。僕は平気だ」


「ごめんね。善は急げと思って本気で走ってしまったんだ。」


僕の事情を察して急いだのだろう。実は良い人なのか?


「それで、君はあの子のどこに惹かれたの?」


「え?」

待ってくれ。悪魔の情報を教えてくれるんじゃないのか?


「あの似顔絵の子だよ。ふわっとした栗色の髪に青色の目。まるでお伽話のお姫様だよ。」

彼女は頬を赤らめて早口で語り出した。

「是非ともうちのメイドに…いや、まずは信頼関係を築くべきか」

あまりにも興奮しているためか次第に呂律が回らなくなり口元からよだれがこぼれそうになっている。


失望した。どうやら悪魔の事を教えてくれる訳では無さそうだ。

「帰ります。あなたと駄弁る暇は無いので」


「待って。あの子に興味があったんじゃないの?」

違う。フェリアに似た者が悪魔と行動していたことが気になっただけだ。

「…悪魔に襲われて死んだ妹にそっくりだっただけだ。」


「その話。詳しく聞かせて欲しい。」


先程とは全然違う口調に驚き振り返ると、そこには頬を赤らめよだれを垂らす彼女はおらず、1人の騎士が立っていた。


僕は彼女に、村が襲撃されたこと。悪魔と戦い僕以外の人が死んだこと。悪魔から人々を守る覚悟を決めた事を話した。


「そうか。とてつもない災難だったんだね。」

彼女は哀れむような視線を僕に向けた。


「それを乗り越えて君は悪魔と戦う覚悟を決めたわけだ。」


「ああ。その覚悟は変わらない。悪魔による悲しみの連鎖を断ち切りたいと思ってる。」


「君の気持ちは伝わった。では一つ質問しよう。悪魔の中にはね、死体を操る力を持つ者もいるんだ。

仮にだけど、妹がそれに操られて君の前に立ちはだかった。

そうなったらどうする?」


僕は迷わず問いに答える。

「誰かを傷つけるなら倒す。たとえそれが妹でも」


すると彼女はこちらをまじまじと見つめ少し笑みを浮かべる。

「いい返事だ。君、名前は?」


「ネクス・レオンだ。」


「君の望みはこの先にある。一緒に来てくれる?」


「もちろんだ。」

ニコルに向け深く頭を下げた。僕は感謝で胸がいっぱいになった。


「こっちだよ。ついてきて」


そういうと彼女は茂みの先へ進む。

僕は彼女の後を追いかけた。


〜〜〜

茂みの先には何故が行商用の馬車が用意されていた。

ニコルは僕を馬車の中に案内してくれた。


「よし、作戦開始だ」


「分かりました。ニコル殿。」


ニコルの号令に合わせ馬車が動き出す。ん?作戦開始?どういうことなのだろうか?


「ニコル。作戦開始とは?」


「これから悪魔を討伐しにいくのよ。」


驚いた。いきなり実戦をするようだ。

「…今から?」


「おや?もしかして行きたくないの?さっきまで悪魔を倒すって意気込んでいたのにね」


「それとは別の問題だ。あまりにも急すぎて準備ができてない」


「安心して。私達がついてるから大丈夫。何があっても君だけは守る。そして君の望みを叶える事を約束するよ」


その時の彼女は眩しいくらいに輝いて見えた。強く真っ直ぐな彼女の意思は僕にはそのように受け取れた。

最初は自分の準備不足を憂いて断ろうとしたが、よく考えれば早く行かなければ少女が危険かもしれない。


「分かった。僕もこの戦いに身を投じよう。」


「よろしくね。」

彼女は手を差し出してきた。僕はその手をしっかりと握る。

その手はとても力強く感じた。


ズドーンッ

前で大きな音がした。敵が襲撃してきたのだ。幸いにも間一髪でかわせたようだ。


「敵は少ないから私1人で行く。指示があるまで君はじっとしてて。


ニコルが馬車から躍り出る。


僕は馬車の小窓(銃撃用)から外の様子を見る


ギシャー…ガガ

馬車を襲ったのは悪魔の集団であった。数は4体。金属の鱗と爪があるリザードマンの様な姿をしている。2メートルを越すそれは非常に脅威だ。

一方こちらの戦力はニコルを含めて10人。素人目でもとても不利だと感じた。しかも、ニコルは武器を持っていない。ステゴロで戦う気なのだろうか。正気とは思えない。


ギシャー!

悪魔たちが覆いかぶさるように襲いかかる。


「ウザードか〜君達じゃ相手にならないよ」

ブゥン!

刹那、悪魔たちの体が宙に浮く。

その中心でニコルが足を上げている。

なんということだ。回し蹴りで悪魔の群れを一蹴したのだ。

彼女は悪魔に間髪入れず打撃を与える。その拳は鋼鉄の鱗をひしゃげさせた。

その猛攻は止まらず、瞬く間に悪魔達は倒れていった。


つ、強い…

僕は彼女の強さに圧倒された。なんとなく強者の匂いはしていたがこれほどとは。


ニコルは最後の悪魔の首を折り、とどめを刺した。その後ろで倒したはずの悪魔が起き上がる。その体は赤熱し膨張していた。今にも爆発しそうなそれはニコルに襲い掛かったのだ。


危ない…と思うより体が先に動く。無意識に不死鳥の剣を握っていた。


ボゥン!

炎を後ろに噴射し反動で突進する。

気がついた時には爆発しそうな悪魔に体当たりをかましていた。


「うぉぉぉぉ!」

ボカァァァン!!

一瞬驚いた顔のニコルが見えたが、爆風で直ぐに見えなくなった。

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