第2話 絶望と救済
僕は深い山の中をさまよっていた。
あの日、全てを失った時から時が止まっている。
早く皆の元に行きたい。
ただ、この剣がそうさせてくれないのだ。
はじめに、不死鳥の剣で自分を刺そうとした。
剣が体に刺さることは無かった。
次に、体に火をつけた。
火はすぐに消えた。
しまいに、不死鳥の剣を破壊しようと岩に叩きつけた。
岩が真っ二つに割れた。
どうやら剣がある限り僕は死ねず、剣自体を破壊する事も不可能なようだ。
全てを失った僕を阻むなんて、まるで悪魔の所業だ。
ギュルルル…
腹が減った。
辺りを見渡すと手の届く位置に実がなっていた。
実をもぎ取り口に運ぶ。
「ゔっ…」
ドサッ
全身に力が入らない。
この実には毒があったようだ。
ーーーーー
チュン!チュン!
鳥のさえずりで僕は目を覚ます。
僕はベットの上にいた。
「う、ううん」
体に力を入れると、なんとか起き上がれた。
窓から外を見るとフシ村では考えられないほど立派な街が広がっていた。
通りは多くの人々で賑わい、活気に溢れている。
(綺麗だな)
その光景は在りし日の村の様子を思い出させてくれた。
思い出に浸っていると、突然雷鳴が響いた。
あの日の事を思い出したのだ。
ここに悪魔が攻めて来たとしたら村と同じような結末になってしまうかもしれない。この街は自分の村からそれほど離れていないはずだ。可能性は十分にある。
僕は決心した。
今を生きる人達のために悪魔を倒す。
そうすれば惨劇は起こらない。
村人達の顔が一人一人鮮明に浮かんでくる。その誰もが微笑んでいる。まるで僕の事を送り出してるかのように。
「兄さん!」
幻聴だろうか?いつもそばにいた声が聞こえる。
「本当に、できるの?」
「ああ。やってみせるよ。これ以上、悲しみを生まないためにもね。」
「兄さんならそう言うと思ったわ。私はこれ以上力になれないけど……ずっと…見守ってるよ!」
幻聴はここで途切れた。微笑みを浮かべた彼女が見えた気がした。
「ありがとう。とても心強いよ。」
僕は彼女の言葉を胸にしまい、空を見上げた。海の青より鮮明な色が地平線まで広がっていた。
〜数日後〜
僕は病院から退院するため、朝から荷物を纏めていた。新しく住む場所が決まったからだ。
どうやら森の中で僕を見つけたのはフシ村の生存者を捜索していた兵士で、この病院に運んでくれたらしい。
その人達からフシ村襲撃のことについて色々聞かれ、事情を話した。
彼らは僕のこれからの事を案じ、半年分の生活費と宿を提供できるよう手続きをしてくれた。
命を救ったただけでなく、生活費と宿まで用意してくれるとは、この兵士達には感謝しかない。
僕はお世話になった人たちにお礼をして、病院を後にした。
宿に荷物を置き、真っ先に基地に向かう。
兵士に事情を話したついでにこの街について聞くことができたのだ。
〜
この街の名前は、前線の城(ブルクロント)。
悪魔軍との最前線にあるこの街は駐屯する『連合軍』と呼ばれる人たちによって守られているとのことだった。
彼らと関われば悪魔の情報がいち早く入るだろう。
僕はどこで連合軍と会えるか兵士に聞いた。
すると、
「それならこの街の中心部に基地がある。そこに行ってみたからどうだ?」
〜
このように言われ、兵士からもらった地図を頼りに道を進んでいる。これによると、中心部にある広場を通り越して、3本目の大通りを右に曲がれば着くようだ。
〜ブルクロント広場〜
広場の前に来た。奥にある大きな掲示板の前に人だかりができている。
ザワザワ…ドヨドヨ…
何だろう?やけに騒がしい。
周りの反応からして良い知らせでは無さそう
だ。
文字が見える位置まで近づき、何が書いてあるか見る。
その内容に目を疑った。
「バーク街道にて旅団が襲撃される事件あり。悪魔によるものと思われる。街道を通る者は必ず交易局の指示に従い行動せよ。」
やはり悪魔がこの近くまで来ていたようだ。
それよりも問題はその下だ。
「共に行動している人間あり。見つけ次第捕獲し、連合軍に届けよ。なお生死は問わないとする。」
この文と共に似顔絵が貼り付けてある。
長い栗色の髪の少女…
あの時死んだはずのフェリアにそっくりだったのだ。
もしかすると、この剣の力で生き返ったのかもしれない。
そうなると、悪魔と行動してると言う点が気がかりだ。やつらにこき使われてるとなるとぞっとする。
とにかく、基地へ急ごう。
何か手がかりを得られるはずだ。
「へー。君も気になるんだ。」
突然声をかけられる。
振り向くとそこには兵士のような格好の女がいた。
つけている鎧は銀色を基調に青や桃色で彩られていて、ポニーテールの髪もその色に合わせている。
幻想的で大胆な出立だ。
「どなたですか?」
「私はニコル。ニコちんって呼んでね」
「この子かわいいよね〜。君もそう思うだろ?」
話し方からすると、明るく友好的な感じで兵士としての緊張感が感じられない。
きっとそういうのが趣味な人なのだろうか。
「すみません。急いでいるのでもう行きます。似顔絵の子を助けるために悪魔の情報を得なければならないんです。」
「よし、一緒にきてくれる?」
ガシッ
肩を掴まれたと思った矢先、体が宙に浮く。
なんと、彼女に担がれてしまったのだ。
自分より一回りも小さいのにこの怪力。
彼女は何者なのだろうか。
「お願いだ!離してくれないか?」
「詳しいことはあとで話すから〜…じっとしてて」
話が全く通じない。こちらのことは見向きもせずただ走り続けている。そのスピードはどんどん上がり、馬車すらも追い抜いた。
「おわわぁぁ!」
一体僕はどうなってしまうのだろうか?
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