EP.03:平穏 Ⅱ

 灯りの無い一室、そこに一組の男女がいた。

 男は椅子に深く腰を掛け、女は一糸纏わぬ姿で髪を解いている。


 女の背中に、男は視線を向ける。その瞳に情欲の色は無かった。


「……お父様、これからの任務については――」

「それについては話をしただろう、お前はもう戦うことは考えなくてもいいんだ」

 女はその言葉に手を止める。

 闇の中で光を放つかのような銀色の髪がさらりと流れた。


 そして、女は男に向き直る。

 恵まれた肢体を見せつけるかのように立ち上がって、男に歩み寄った。


「――わたくしは盾であり、剣として、ここにいるのです。お父様はそれを否定されるのですか?」


「そうだ」


 父と呼ばれた男は端的に答えた。辟易した表情を隠しもしない。


「ならばどうしろと?」

「俺は、お前に普通の生き方を知ってもらいたいだけだ」


「そんなもの――」

 銀髪の女は苛立ちを隠さない。射殺すような眼差しを向ける。


「お前には必要だ、少なくとも戦いしか知らないお前には……」

「――それは、命令ですか?」


「ああ、そう捉えてくれて構わない」


 女は諦めたように視線を逸らす。


「わかりました、任務を遂行します」

 銀髪の女は、無表情のまま言った。それを見て、男は再び表情を曇らせる。


 何を言っても無駄だ、と男は諦めて椅子から立ち上がって、部屋から出て行く。



 誰もいない部屋で、銀髪の女は1人で笑みを浮かべていた。

 

 

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