53 はっきり指摘したな〜って

「これで十二件目完了ね」


フレアリールとギルセリュートは、最初の伯爵家以降、日に何軒も貴族の屋敷を回っていた。ただ帰還の挨拶をする場合もあったが、いわゆる第二王妃派の貴族達を閻魔帳を使い順調に捕縛していく。


気付けば王都は目前にまで迫っていた。


「南側は全て潰したようなものだが、北は良いのか?」


シェンカから北上していくフレアリール達は、その道中で捕縛しまくっているのだ。そうなると中央にある王都を挟んだ北側までは回れない。


「そっちはゆっくりで良いのよ。それほどはっきりとした第二王妃派がいないし」

「……そういえばそうだな……」


ギルセリュートも調べてはいたのだ。その情報を頭の中で照らし合わせて頷く。


「だが、なぜだ? 北の大地の影響を受けていたからか?」

「それが一番の理由ね。第二王妃派だなんだっていうことに参戦してる暇があったら領内をどうにかしないとって思えた・ ・ ・みたい」

「……結果的にということか?」

「そうね。おそらく、ギル達が王宮から居なくなるまでは第二王妃にべったりだったようだし、瘴気が強くなってきて、そんなこと考えてる余裕がなくなったのだと思うわ」


『政争なんかに構ってられん!』と考えを改めたようなのだ。ただし、自発的にではない。


「……というのが表向きね。まあ、領主達にも自分たちで悟ったって自覚があるけど」

「……ウィルやゼリエス殿が関わっていると……」

「現実を見るように仕向けたみたい。民を扇動してね。ウチにしては珍しく平和的な解決法だわ」

「……扇動している時点で平和的とは言えないのでは?」


ウィリアス達は、少し囁いただけだ。『領主は民の生活を考えるよりも大事なことがあるらしい』という抽象的な指摘をしたに過ぎない。


北側は、北の大地からの瘴気の影響で、南側よりも遥かに早く作物がまともに育たなくなっていたのだ。ただでさえ、太陽の光が遮られていた。民達はその日の食事すら、満足に摂れなくなっていたのだ。不満はかなり溜まってきていた。


ウィリアス達の暗躍により、民達は自分たちで憶測を持ち、証拠を探した。そして、真実を掴み取って領主に訴えたのだ。


「でも民達の掲げたスローガンは笑えたわよ? 『赤いドレスに媚び売る領主は排除しろ!』って」

「『赤いドレス』か……誰を指しているか一目瞭然だな」

「でしょ? はっきり指摘したな~って感心したわよ」


赤いドレスを代名詞として使われるのは第二王妃のセヴィエだけ。


民達は本当に真実に辿り着いていたのだ。


「だが、そんな事は耳にしなかったんだがな。少なくとも、私は気付かなかった……」


聡と暮らしていた場所は、王都より南。北へはあまり行かなかったとはいえ、その情報が自分の耳に入らないのはおかしいと思うギルセリュート。


「北の各地で同じ時期に民達が動いたみたいね。慌てて領主達が火消しに走ったの。そのお陰で騒いだのはひと月もしてないわね。それに、十年近く前よ? 南の方には噂でも残ってないわね」

「それなら、知らなくても不思議ではないな。なるほど。第二王妃の耳にも入っていないかもしれないのか」

「ええ。あの方、周りの声なんて聞いてないもの」


セヴィエは、自分に甘い言葉しか受け付けない。周りも聞かせないようにしているフシがあった。特に民達の声など気にしないだろう。彼女の世界は、貴族や力を持つ者達だけの世界なのだから。


これにより、王都の南さえ押さえれば問題はないと納得したギルセリュートとフレアリールは、王都に入った。


「真っ直ぐに王宮へ行っても良いが、教会が問題なのだったな」

「ええ。状況を知りたいわ」


先ずは情報を集めることにする。


「ならば、私はギルドに行って来よう」

「分かったわ。私は住民達に聞いてみる。二時間後に落ち合いましょう」

「ああ。気を付けて」


二人で手分けすれば様々な角度からの情報を得られるだろう。ギルセリュートの情報では、潜ってしまった裏の情報が手に入るし、フレアリールは表面化している噂の域にある情報が分かる。


それを聞き比べれば、どの辺りから流れてきている話かも特定できるかもしれない。


この方法は、お互いを信頼し合っているからこそできることだ。


《エリスの仲間が教えてくれないの?》

「王都は元々、ウチの暗部はあまり入らないのよ。一応、裏にも管轄があってね。遠慮しないといけないの」

《ふ~ん……なんかメンドウなんだね》

「そうね。情報をやり取りする彼らだからこそ、こういう縄張りっていうのかしら? ルールが必要なのよ」

《うん。よくわかんない》


リオは理解することを諦めたらしい。


フレアリールは苦笑しながらも、フードを目深に被って聞き込みを開始した。


しかし、数人に話を聞いた所で、ふと見知った者が視界に入った気がしてその違和感の正体を知ろうと動きを止めた。


「誰……?」


貴族でも紛れていたかと思ったのだが、フレアリールと同じようにフードを深く被った人物に引きつけられた。


《あの子、どっかで見たような……黒……?》

「……」


リオも気付いた。周りの人とは違う存在。もっと言えばこの世界の人と違う存在だ。


その人のフードから覗いた髪は、毛先の方が明るい茶色。光の入り具合によっては聖色に見えなくもない。そして、その奥は黒だった。


「……間違いない……確か、アヤナだったわね」


アヤナは一人、ふらふらと路地に入っていく。その先はあまり治安が良くない場所のはずだ。


フレアリールは躊躇うことなくその後を追った。

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