謙介36
真維がいなくなっても、当然のことながら日常は止まることなく進んでゆく。
心を躍らせることはもうなくなった。嫉妬や疑いや自己卑下、嫌悪、そんな邪な感情に乱され、振り回されることももうなくなったが、それらも含めて、真維と過ごした日々は熱い感情で満たされていた。
今は感情を失ったかのように淡々と生きているだけである。
もう一度交際倶楽部に入会して、新しい愛人を探そうかと考えたこともあった。
しかし、彼女ほど愛せる人を見つけることは不可能に思われた。また、彼女を裏切ったという思いが心の底にずっと残っていて、贖罪の思いからも、そうすることは止めた。
毎日彼女のことを想っていたが、時が経過するにつれ、次第に思い出す回数は減ってきた。
元の生活、真維と出会う前の生活に戻るだけではないか、とよく自分に言い聞かせた。
しかし、時折、訳なくとても寂しく切なくなる夜がある。そんな時には彼女からのメールが届くはずがないのに、鳴らないスマホを枕元に置いて眠りについた。
年が暮れ、年が明け、春になり、暑くなり始めた頃、謙介は盆休みに真維の墓参りに東京に行くことに決めた。
コロナに感染して迷惑をかけたらいけないので、自粛していたのだが、2022年になってから会社の出張も行われ始め、コロナ以前のように戻って来た。
それで、もういいだろうと思い、上京することにした。
以前依頼した興信所に彼女の実家を調べて貰ったのだが、墓地の場所も調べてくれていた。
実家を訪れて、仏壇を参らせて貰おうかと思っていたが、両親と会うのは憚られたので、墓地まで調べてくれたのはありがたかった。
東京で2泊し、それから北海道の亜美のところに行く予定である。亜美は結婚して、昨年女の子を出産して、その写真を時々送ってくれた。まだ会ったことのない孫に会うのは楽しみであった。
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