12月20日(火)曇りのち晴れ 伊月茉奈との日常その10
雪雲が去った後の火曜日。
金曜は終業式になることから、年内の学校での文芸部は今日が最後になる。
その後も年明けまでに打ち上げ会をする予定になっているけど、冬休み中の過ごし方については今日全て伝えられた。
基本的に冬休み中は学校での活動は無くなるけど、次の冊子に載せる作品は少しずつでも取り組んでおく必要がある。
また、長期休みなのでこれを機会に本を一冊でも呼んで欲しいと路ちゃんは伝えた。
後者については……僕も耳が痛い話である。
本を読んでいる場合じゃないと言い訳するのは良くないだろう。
そうして、部長からのお知らせと今日の座学が終わると、いつもの雑談タイムに入る。
数名来ていた3年生は年明けには受験の波がやって来るので、今度の打ち上げが最後の楽しみだという人もいた。
すると、それを聞いた日葵さんは何の気なしに言う。
「えっ? その前にイブとクリスマスがあるじゃないですかぁ。センパイ方は予定ないんですか?」
その言葉に名指しされたわけじゃないのに、僕はドキリとしてしまった。
「こらこら、ヒマリ。多方面にナイフ投げちゃダメでしょ」
「そんな事言って、ソフィアセンパイは藤原センパイとお出かけするんでしょー? いいな~ リア充クリスマス」
「それはまぁ……そうなんだけどね」
「やっぱり!」
しかし、その話題はソフィア先輩の方に吸収されたので僕は会話に混ざらずに済んだ。
最近のソフィア先輩はわりとオープンになってきているので、この手の話題はあちらに任せておけばいい。
その度に藤原先輩は微妙に居心地が悪そうにしているけど……まぁ、仕方ないだろう。
「ひ、姫宮さんは……24日と25日になんか予定あるの?」
「ある」
「ええっ!?」
「24日。いつも通り12時前まで寝る。起きたら一旦日葵の家に行ってパーティーらしきものに参加する。その後は家に帰ってこの日二度目のチキンを」
「あっ、そこまで詳しく言わないでも大丈夫。というか、日葵達と過ごすのか……」
「羨ましいだろー」
「羨ましいわ!?」
「ウソ、普通に羨ましがられた」
桐山くんはクリスマス直前の最後のあがきを見せていたけど、残念ながら姫宮さんと過ごすことは叶わなさそうだった。
その間に僕は……と思うと、かなり裏切ってしまった気分になる。
「産賀さん」
そんな光景を眺めていると、伊月さんが僕に声をかけてくる。
「浩太くんのプレゼントの件、本当にありがとうございました。おかげでこの休みにプレゼントを購入できました」
「おお、それは良かった。でも、結局僕はあまり役に立たなかったから、路ちゃんの方にお礼を言ってあげて」
「はい。さっき直接伝えさせて貰いました」
さすが伊月さんだ。
「それで……路先輩にも言ったことなんですけど……」
「うん? なに?」
「産賀さんもがんばってください……!」
「……えっ!? いや、何のこと……」
「いえ、皆まで言わなくても何となくわかります。わたしばっかり応援して貰って悪いですが、気持ちだけでも」
伊月さんはいつになく目を輝かせてそう言った。
自分としては昨日よりは正常な感じに戻っていたつもりだったけど、伊月さんは何かを察していたのか。
あるいはあの男が……いや、皆まで言わないでおくか。
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