12月2日(金)曇り 後輩との日常・桐山宗太郎の場合その11

 ところによっては雪が降ったらしい金曜日。

 本日もサッカーが盛り上がったようで、早朝に行われていた試合を見た人は寝不足だと言っていた。


「でも、早起きして見たかいがあったすっよ!」


 どうやら桐山くんもその1人のようで、部活の雑談タイムに入ると、すぐにその話題を振ってきた。

 しかし、申し訳ないことに僕のリアクションは薄めだった。

 ニュースで見ても凄い勝利ということしかわからなかったし、根本的に興味がないのである。


「桐山くんはスポーツの中継よく見るの?」


「はい。どっちかというと野球を見るんすけど、さすがに世界大会レベルになると、別のスポーツでも見たくなって。結構ミーハーっすよね」


「いやいや。逆に見てない人の方が少ないと思っちゃうから、ミーハーではないと思う」


「そうっすよね! みんなで話せる話題にもなりますし!」


 桐山くんから陽キャのオーラを浴びた僕は何故かダメージを負ってしまう。

 こういう日本全国が一致団結できそうなお祭りごとに興味を示せないのは、空気を読めていない可能性がある。

 日常会話のためにと思って、もう少し興味を持つべきなのかもしれない。


「凄いなぁ、桐山くんは」


「えっ。急にどうしたんすか」


「ううん。こっちの話」


「そうっすか。じゃあ、俺はちょっと姫宮さんに話してくるっすね」


 桐山くんは意気揚々と姫宮さんの方に向かって行く。

 なるほど、僕に話題を振ったのは予行演習でもあったのか。

 確かにこれだけ大きな話題なら姫宮さんとも話しやすく……いや、どうだろうか。

 日葵さんや伊月さんならともかく、姫宮さんは……


「産賀先輩……」


「ど、どうしたの」


「姫宮さん、球技には興味ないみたいっす……」


 予想よりも広い範囲で興味がなかったようだけど、やっぱりそういう結果になった。

 スポーツに関しては男女限らず楽しめるけど、興味がない人からすると、そこから話題を広げるのは難しい。


「姫宮さんの好きな話題、なかなか見つけるのが難しいっす……」


「そうかな? 火曜にライトノベルの話してなかった?」


「してたっすけど……俺が好きなラノベを言ったら、それはそんなに刺さらなかったんで……」


「そ、そうかぁ……」


「……でも、諦めないっす。クリスマスまでには何とか……!」


 それはかなり大変な道になりそうだけど、僕は応援するしかなかった。

 自分が好きな相手でも、話せる話題が噛み合うかどうかはまた話が変わってくる。

 今回の桐山くんは失敗してしまったけど、そういう意味では興味がないとすぐに切り捨てずに、広く浅く知っておくのもいいのかもしれないと思った。

 とりあえずは……オフサイドの正確な判定がどういうものかくらい調べてみよう。

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