11月8日(火)晴れのち曇り 後輩との日常・姫宮青蘭の場合その11

 どんよりとした火曜日。

 本日も通常通り文芸部の部活動が行われて、文化祭の冊子に掲載された作品の感想が交わされていく。

 その最中に路ちゃんと話したけど、業務連絡ですらどこかぎごちない感じがした。

 どちらが悪いというわけでもないけど、どちらかがまた踏み込まなければ、この空気は変えられない気がする。


「副部長。部長と何かありましたか」


 そんな中、姫宮さんは単刀直入にそう聞いてくる。

 姫宮さんはそういうことに敏感な印象があるから、何となく察せられたのかもしれない。

 ただ、今回に関しては本当のことを説明できなかった。


「全然。何かあるように見えた?」


「見えたから聞いてみました。当てずっぽうではありません」


「当てずっぽうと疑ったわけじゃないんだけど……逆に姫宮さんは普段の僕と路ちゃんはどういう風に見えてるの?」


 話題を逸らすためにそう言ってみたけど、姫宮さんは素直に考え始める。


「風神と雷神」


「えっ。そんな双璧を成すような感じで見えてるの……?」


「間違えました。月とすっぽん」


「そっちの方が納得できるけど……わりと悪口だ」


「これも違うか。モーツァルトとサリエリ」


「それは……サリエリが対立したっていう……」


「ドルチェ&ガッパーナ」


「全く関係ない! 適当なこと言ってる!」


 僕の反応に姫宮さんは口元を隠して笑う。

 ちょっと興味を持って聞いてしまった僕が馬鹿だった。


「いえ。本当のことを副部長に言うのは何だか憚られるので」


「そう言われると気になるんだけど……別に悪口でもいいから言ってみてよ」


「悪口ではありません。ただ本当に言っていいんですか」


「う、うん」


 わざわざ前置きをする姫宮さんに僕は少し怖気づいたけど頷く。


「部長と副部長を表すなら片方が三十六度だとするともう片方は三十六度七分という感じです」


「……体温の話?」


「いえ。あくまでたとえ上での数字です。私の目はサーモグラフィではないので」


 それはもちろんわかっているけど……片方が七分だけ高い。

 その高い方は僕なのか、路ちゃんなのか。

 何を基準に温度でたとえたのか。

 疑問は色々あるけど、姫宮さんはそれ以上解説してくれなかった。


「あ、ありがとう。独特な表現は参考にさせて貰うよ」


「待ってください。それならもっといい感じのフレーズを考えるので。タッキー&」


「そこは今デリケートだから!」


 姫宮さんの真意はともかく、何だかんだで面白いやり取りだったことから、僕の心は少しだけ癒された。

 僕と路ちゃんを表すなら……駄目だ。今の僕だとネガティブな表現しかできない。

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