10月30日(日)晴れ ソフィアとシュウの与太話

 10月最後の日曜日。

 この日は文芸部の文化祭打ち上げが行われる。

 去年は忘年会と合わせての開催だったけど、今年は日葵さんの希望を汲み取って別日開催となった。

 文化祭当日には日葵さんのおかげでコスプレは(女子オンリーだけど)本格的なものになったし、それに釣られて見に来てくれた人も多かった。

 そして、文化祭打ち上げの会場については、ちょっぴり豪華なものを検討した結果、事前にスイーツ食べ放題のお店が予約できた。

 ハロウィン前の日曜日だから、狙っている人も多そうだったけど、早めに予約したのが良かったらしい。


「改めて文化祭、お疲れ様でした。皆さん、好きなスイーツをお楽しみください」


 路ちゃんの挨拶が終わると、各々が好きなスイーツを選び始める。

 小さなケーキと共にハロウィンに合わせたオレンジや紫色のスイーツがたくさん並んでいた。

 前日の明莉のことを思うと、少々申し訳ない気持ちも出てくるけど、今回は文芸部内の話だから勘弁して貰おう。


「産賀センパイ、よくここの予約取れましたね」


 お皿いっぱいにスイーツを乗せた日葵さんが駆け寄って来て言う。


「タイミングが良かったんだと思う。予約する時はハロウィンのことなんて頭から抜けてたから」


「だとしたら産賀センパイは持ってると思います! それより早く選ばないと限定っぽいやつ無くなっちゃいますよ!」


 そう言い残して日葵さんはテーブルの方に帰って行った。

 あれだけはしゃいでくれているなら、今回のチョイスは大成功だと言える。

 ただ、多少今回で集金している部費を使い過ぎた感じがあるので、年度内の残りの会は色々考えなければならない。


 それからは自由時間になると、女子達は程よくお喋りしつつ、様々なスイーツを食べていた。

 一方、僕と桐山くん、藤原先輩はちょっと遠慮がちに食べていた。


「すみません、藤原先輩。それに桐山くんも。今回は女子中心な感じになって」


「……全然。甘いモノは……嫌いじゃない」


「右に同じっす。それに……スイーツを食べる姫宮さんが見られましたし」


 そう言った桐山くんの目線の先には黙々とスイーツを口に入れていく姫宮さんがいた。

 まるで日葵さんと競い合うかのように食べている姿は可愛さよりもフードファイターのような……


「可愛いなぁ……」


 ……桐山くんがそう思うならそういうことにしておこう。

 

「あっ、甘いモノと言えば……あれからソフィア先輩とはどうなんすか?」


「…………」


「もう、照れないでもいいじゃないっすかぁ~」


 桐山くんにウザがらみされながらも藤原先輩は照れくさそうな空気を出していた。

 さすがに文化祭直後よりは話題の鮮度が落ちてきているけど、2人の関係は相変わらず文芸部内で注目の的だった。

 僕としてはあまり聞き過ぎない方がいいと思うけど、部内で少し協力した結果のカップルだから話題にするなという方が無理があるとも思う。


「それでも…………最近は受験勉強とか……忙しいから」


「あー……やっぱりこの時期だとそうなっちゃうんすね。だったら、本格的にデートとかできるのは春先になるのかぁ」


「……デートはした」


「ええっ!? いつの話っすか!?」


「昨日…………勉強の気分転換に…………散歩だけど」


「いいじゃないっすかぁ~ そういう日常のちょっとした行動も2人でやると楽しいってことですよね! くぅ~」


「……産賀くん。何か別の話題……ない?」


 藤原先輩の恥ずかしさが限界を迎えたようなので、僕は適当な話題を振っていく。

 でも、この件でいつもと違う反応を見せる藤原先輩は何だか可愛らしい。

 変にいやらしい感じかしないというか、初々しさが伝わってくる。


「そうでしょそうでしょ」


「わっ!?」


 背後から急に出てきたソフィア先輩に僕は驚く。


「ど、どうしたんですか」


「そろそろシュウの相手もしてあげなきゃいけないと思って。でも……何だか楽しそうにしてたから」


「藤原先輩自身は困ってると思いますよ。早く誘ってあげてください」


「ウーブ君、なかなか言うようになったねぇ」


「そ、そうですか?」


「うん。これでソフィア達も安心して後を任せられるかな」


 そう言い残してソフィア先輩は藤原先輩を捕まえてスイーツを取りに行った。

 そうか……この文化祭の終わりは実質的に3年生が引退するタイミングでもあるんだ。

 年明けにはまた新しい部長と副部長を決めて、それが正式に決まる頃には3年生が目前になっている。

 楽しい一日だったけど、そのことにちょっとだけ寂しさを覚える日だった。

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