10月11日(火)曇り 隣接する岸本路子その5

 文化祭前の週が始まった火曜日。

 校内では勉強よりもそちらの方に意識が向き始めていて、何となく賑やかな空気感が漂っている。

 文芸部では印刷された冊子が届き、装飾の準備も完了して、当日の配置や持ち運びが必要な物の確認が行われた。


 それから僕と路ちゃんだけ少し残って冊子の不備や他に準備が必要な物がないかなど、準備前の最終確認を行っていく。


「そういえば良助くんはコスプレ用の何か買った?」


 そんな中、路ちゃんはちょっとした雑談としてその話題を振ってくる。


「あっ!? しまった……」


 しかし、僕はコスプレのことをすっかり忘れていた。

 副部長として文芸部全体の準備のことは三連休中も思い浮かんでいたのに。


「何をやってるんだ僕は……」


「こ、コスプレは自由にやることになっているから、そんなに気を落とさなくても……」


「でも、みんなやる流れっぽいから1人だけやってないのは浮いちゃうかもしれない。路ちゃんは何か買ったの?」


「え、えっと……うん。一応、買ったというか、用意したというか……」


「参考までにどういうものか聞かせてくれない?」


 僕は少し焦り気味にそう聞くと、路ちゃんは何故か僕から目を逸らす。


「い、今はまだ内緒で……」


「えっ。なんで?」


「なんでと言われても……わ、わたしが話を振ったのが悪いけれど、これ以上は聞かないで」


「う、うん。わかった」


 そう返事をしつつも言い方からして余計気になってしまう。

 実際のところみんながどの程度のコスプレを用意しているのか全く把握していないので、本当に参考にしたかった。

 かといって、今からLINEで全体にどんなコスプレをするか聞くのは、何だか野暮な気もする。

 今日の作業中もコスプレの話題が挙がってなかったのは、恐らく本番で見せ合うのを楽しみにしているのだ……主に姫宮さんが。


「しかし困ったな……もうあと数日しかないのに全く何も浮かばない」


「わ、わたしが言うのも何だけれど、そんなにこだわらなくても大丈夫だと思う。100均で揃えられるモノとか」


「なるほど。まぁ、本当に何もなかった鼻眼鏡にするか……」


「う、うーん……」


 僕の発言に路ちゃんは微妙な表情になった。

 半分くらい冗談で言ったけど、やっぱり人と対面するのに鼻眼鏡は良くないか。


「じゃ、じゃあ……三角帽子とかはどう?」


「それなら大丈夫……って、わたしの意見だからあんまり参考にならないかもしれないけれど」


「いやいや。本当に何も思い付いてないから助かるよ。あとは……」


 その後も手を動かしつつも当日のコスプレを考えたけど……完全に誕生パーティーから抜け出してきた自分が目に浮かんできた。

 それが文芸部の副部長として相応しいとは思えないけど、あと数日で何も思い付かなければこれで行くしかない。

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