9月27日(火)雨 後輩との日常・岸元日葵の場合その8

 9月最終週が始まる火曜日。

 体育祭が終わったということは、文化祭が近づいてくることになり、文芸部的には最も忙しくなる時期だ。

 冊子に掲載する小説の締め切りは今週の金曜日なので、今日の時点であとは見直しや細かい調整をする段階であることが望ましい。


「それで体育祭の打ち上げはいつにします?」


 そんな何かと忙しい週だけど、日葵さんは相変わらずのマイペースだった。


「本当にやるつもりだったんだ」


「逆になんで嘘付かないといけないんですか? この際、走ってない人も一緒に……」


「それなら文化祭の打ち上げと同時にやれば良くない?」


「だって、それだと回数減っちゃうじゃないですかぁ! ただでさえ打ち上げやる機会が少ないんですから、両方しっかりやりましょうよ~」


 他の部活がどんな感じか僕にはわからないけど、確かにうちの文芸部で打ち上げ的なものをする機会があるとすれば、文化祭終わりくらいだ。

 文芸大会とかに出ればそういう機会も増えるのだろうけど、それでも運動部と比較したら少なめになってしまうかもしれない。


「でも、打ち上げってたまにやるからいいものなんじゃない? 文芸部は忘年会もあるし、2ヶ月に1回くらいでちょうどいい感じに……」


「甘いですよ、産賀センパイ。高校生活はたった3年間しかないんですから、その間にできるだけ思い出を増やしたいじゃないですか。それなのにみんなで集まって交流を機会が少ないなんて勿体ないですよ」


「た、確かに……」


「乗せられないでください、産賀さん」


 日葵さんに言いくるめられそうになっていたところを伊月さんが冷静にツッコむ。


「日葵は単に騒ぎたいだけなので、文化祭の打ち上げだけで十分だと思います」


「ええっー!? なんで、そんな寂しいこと言うの……」


「そもそも昨日、私と青蘭と一緒にプチ打ち上げしたでしょ」


「えっ、そうなの?」


「はい。日葵が暇だって言うので」


「それはそれ、これはこれだよ。だから……」


「わがまま言わないの。文芸部にとって文化祭が一番大きな催しなんだから、それが終わったら盛大な打ち上げになるだろうし、それまで我慢」


「……はーい。わかりました」


 伊月さんは妥協点を作って日葵さんを言いくるめる。

 日葵さんの対応に関しては僕よりも伊月さんに任せた方がいいかもしれない。


「まぁ、日葵さんの気持ちもよくわかったから、文化祭の打ち上げは盛り上がりそうなところを選んでみるよ。とにかく今は冊子を仕上げるのをがんばろう」


「りょーかいです! ひまりも文化祭は文化祭で楽しみですし、展示も絶対成功させましょう!」


 切り替えの早い日葵さんを見て、僕と恐らく伊月さんも胸をなでおろした。

 でも、このテンションが文芸部全体を明るくしてくれているから、それこそ文化祭の当日ではお客さんを引っ張ってきてくれる気がする。

 その期待を込めつつ、打ち上げする場所は日葵さんが喜びそうなところを検討してみてもいいかなぁと思うのだった。

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