8月28日(日)曇りのち晴れ 清水夢愛との夏散歩Ⅱその7

 夏休み39日目。夏祭り本番。会場となる神社の前で僕と清水先輩は集合する。さすがに浴衣は来ていなかったけど、やって来た清水先輩はいつもよりも煌めいて見えた。


「良助、今日はどこから回るんだ?」


「えっと……そうですね…………」


「去年、小織と来た時はどこに行ったんだ?」


「確か……金魚すくいとか、アメリカンドッグとか……」


「良助? なんかやけに緊張してるな。人混みは久しぶりか?」


 清水先輩は心配して聞いてくれたので、僕は「そんなことはないです!」と返すけど、その声は裏返って高くなってしまった。


 今日の僕のプランは……特に定まっていない。夏祭りの巡り方を調べてみたけど、やっぱり正解は見つからなかった。だから、ひとまず屋台を巡って少し時間が経った頃に想いを伝えるくらししか考えていなかった。それまでは純粋に夏祭りを楽しむしかない。


「ここの焼きそば、この前の祭りよりも料金が安いな……地元価格か?」


「また単価で見てるんですか」


「冗談だ。お祭りにはそれ以上の付加価値があるはずだからな。良助も何か食べたいものあるか?」


「僕は……あんまりお腹が空いてからもう少し軽食がいいです」


「うん? 事前に食べてきたのか?」


 清水先輩は当然の疑問を口にするけど、僕は緊張で喉に通りそうにないと思っていたからだ。


 それから僕と清水先輩は食べ物以外の屋台をぶらぶらと見て回った。それは場所が夏祭り会場で、時間が夜であること以外は、普段の散歩と大きく変わっていないはずだった。実際のところ、僕としてもその時間帯は少し緊張を忘れて話せていたと思う。


「……良助、本当に大丈夫か?」


「えっ」


「いや、気のせいならいいんだが、今日は元気がないように見えてな。まぁ、人酔いしても仕方ない空気ではあるが……」


「だ、大丈夫です。体調が悪いわけではないので」


「本当か?」


 清水先輩はそう言いながら僕に顔を近づけて様子を窺ってくれる。その仕草にドキッとするけど、清水先輩自身は来てからずっとこの調子の僕を本気で心配してくれている。

 どうやら僕は順序を間違っていたらしい。夏祭りの雰囲気に任せて想いを伝えようと思っていたけど、僕のような性格ではそれがままならない状態になってしまうのだ。

 本当にやるべきだったのは、先に想いを伝えてから、楽しい気持ちで祭りを巡ることだった。


「清水先輩、少し話していいですか。できれば……ちょっと人が少ないところで」


「ああ。構わないぞ。ちょっと奥の方へ行くか」


 清水先輩がそう言ってくれたので、屋台ゾーンを抜けて進んでいくと、少しずつ人が減ってきた。同時に見える人は男女の2人組が多くなっているように感じる。


「夜の神社って何だか不思議な雰囲気があるな。何か出てきそうだ」


「し、神秘的じゃなくて、ホラーの方ですか?」


「どっちもあるな。いや、神社のホラーを見たことあるわけじゃないから何となくだが」


「じゃあ、場所的にはあんまり良くないと……」


「いや、全然。それより良助の話ってなんだ?」


 そう聞いてきた清水先輩は何か期待するような目をしていた。

たぶん、これから僕が話そうとしていることが面白いことであると思っているからだろう。わざわざ場所を変えともったいぶるくらいだから、なおさら期待している可能性がある。

 その時点で、清水先輩は僕が……告白することなんて想像していないことがよくわかる。

でも、それは僕だって承知の上だ。

 そう考えてくれる方が清水先輩らしいし、だからこそ僕は……清水先輩に惹かれているんだと思う。

 みんなが言う普通の人とは違うかもしれないけど、それが僕にとって新鮮で、心地良くて……好きになっていた。


 だから、今日僕は…………


「清水先輩、突然こんなことを言うと驚かれるかもしれませんが…………僕は、清水先輩のことが――」

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