7月14日(木)曇り時々雨 停滞する清水夢愛その12

 今週の方が梅雨らしく感じる木曜日。梅雨入りや梅雨明けの宣言はあくまで予想であり、仮に間違っていたとしてもデータ的に後から修正しても問題ないことをネット記事から知る。それを目安にする僕たちからすると案外いい加減だとは思うけど、それだけ天気を予測するのは難しいということでもあるのだろう。


 そんな中、この日の帰りはちょうど雨が降り始めたタイミングだった。降っては止んでを繰り返していたので、少し待つべきか、それとも合羽を着て強引に帰るべきか、僕は駐輪場で少しばかり悩む。


「良助、何をしてるんだ?」


 すると突然、清水先輩が僕の前に現れる。こんなところでも偶然出会うとは……いや、さすがにおかしい。今日は何の約束もしていないし、清水先輩は自転車通学ではないから駐輪場に用はないはずだ。


「いや、さっき下駄箱を出たところを見てて、ちょっと待っていたんだが、なかなか来ないからどうしたのかと思ったんだ」


「なるほど……って、雨の中わざわざ待ってたんですか!? 出たタイミングで声かけてくれれば良かったのに」


「だって、自転車取りに行く前に呼び止めるのは良くないだろう。それで何で駐輪場に居座ってるんだ?」


「いえ、雨が止むかもしれないと思ってちょっと待ってたんですよ」


「あー、そういうことか。だったら、あのまま待ってたら大変だった」


「だから、声をかけてくれれば……」


「いや、それは良助が自転車を――」


 意図せず繰り返しになってしまったので、僕と清水先輩は思わず笑ってしまう。そうか。今まで校門では偶然会うばかりだと思っていたけど、下駄箱から出る時に見られていることもあったのか。


「じゃあ、止むまで待つか。さすがに合羽で歩きながら自転車押すのは面倒だろう」


「そうですね。ということは、今まで清水先輩と帰ってる時はこんな大降りの時はなかったのかぁ」


「そうなのか? 私が晴れ女か、良助が晴れ男か」


「今日は雨なので全然関係ないかもしれません」


「うーむ。じゃあ、今までの外出でどういう天気が多かったか言ってみよう。私は――」


 それから僕と清水先輩は行事や遠出の天気について思い出していく。結果として天気と僕らの関係はよくわからないことがわかった。それでもこの時間はとても楽しかった。


「おっ。雨止んだな。今のうちに帰ろうか」


「はい。でも、今更ながら一緒に帰る時間はそんなにないのに待たせてすみません」


「いいじゃないか。私が待ちたかったんだから」


 そう言われてしまうと、僕は何も返させないし、何だか嬉しくなってしまう。清水先輩が僕を待ってくれていた。偶然ではなく、必然にするために。


 けれども、その嬉しさと同時に、今日の清水先輩が悩み事について何も触れなかったのは、本当に良かったのだろうかと少し思ってしまう。これから始まる長い夏休みは、清水先輩にとって遊びや悩むためだけに使っていいものじゃない。


 ……なんて、余計に心配してしまうのは、僕も自分のこれからがあまり見えていないからだろう。清水先輩に対して、今後の僕が取るべき行動。何となくだけど、大きく動かなければいけない予感がした。

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