6月30日(木)晴れ時々曇り 拡散する大山亜里沙その12

 気が付けば6月最終日の木曜日。明日から7月に入ることを考えると、急激に暑くなったのも少しだけ納得する。けれども今年の梅雨明けはかなり早かったようなので、この暑さはまだ序の口かもしれない。


 そんな今日はテスト前ということもあって大山さんは僕の世界史のノートを見て、撮り忘れがないかチェックしていた。2年生の始まりにはまともに授業を受けて貰おうと思っていたけど、その野望は叶わないままになりそうだ。


「よし、全部撮ってたみたい」


「今更言うのも何だけど、世界史なら教科書で暗記すれば何とかなりそうじゃない?」


「いやいや、それだと全部覚えないとダメじゃん? テストで出そうなところを板書してくれてるワケだし」


「うーん……世界史の遠藤先生ってそういう意図で板書してる感じじゃないんだよね。どちらかというと一応板書してる的な」


「えー……それなら板書なんてしなければいいのに」


「そういうわけにもいかないでしょ。それにあくまで僕の体感だから」


 自分から振っておきながらそう言ってしまった。実際のところ先生方は入念に授業内容を考えているはずだから、体感だとしても相当失礼なことを言っている自覚がある。


「でもでも、うぶクンは授業中の先生の発言もメモしてるからそこがテストのヒントになったりするじゃん?」


「それも遠藤先生の場合はそうでもない感じがするというか……世界史は教科書見て暗記した方が良さそうかも」


「そうなんだ……参考にします!」


 大山さんは敬礼しながら返事をする。結局、なんやかんや言いつつ授業を受けないでもいいような教え方をしてしまう辺り僕はだいぶ甘い。

 すると、僕と大山さんが話しているところに野島さんが割り込んでくる。


「産賀くん、私にヤマ張るところを教えるのは渋るのに、亜里沙には普通にノート貸すんだ。ふーん……」


「い、いや、それはその……言ってくれたら貸すよ?」


「まぁ、そこは付き合いの長さかー でも、亜里沙って最近世界史の授業寝てないでしょ?」


「こ、こらっ! のじぃ!」


「えっ、そうなの?」


「ま、まぁ、そうだけど……いいじゃん。もう習慣みたいなものだし」


「いや、起きてるなら板書しても……」


「世界史の板書はあんまり意味ないなら、これからもうぶクンにお任せしまーす!」


 その言い分でごり押されてしまったので、僕は何も返せなかった。


 大山さんの席はとても近いけど、今は一番前の席で、世界史の授業の際に後ろを振り向くことはないから全く気付かなかった。

 それを言わなかったのは、単に板書するのが面倒くさかったのか、それとも……まぁ、今後の話はテストが終わった後にでも考えよう。

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