6月25日(土)曇り 明莉との日常その53
全国的に灼熱の土曜日。けれども僕はテスト1週間前ということで、エアコンのかかった家に籠っていたからさほど暑さは感じずに済んだ。
そんな今日の居間でのテスト勉強はこの前の中間テストと同様に、明莉の友達の原田さんが参加することになる。
しかし、家にやって来た原田さんの様子が少々おかしかった。
「もー そんなに引っ付かないでちゆりん……暑苦しいでしょ」
玄関まで出迎えにいった明莉が居間に戻ってくると、原田さんは明莉に引っ付く……というか、ほぼ抱き着くような形になっていた。
そして、明莉の言葉に聞く耳を持たず、僕の方へ目線を向ける。
「聞いてくださいよ、あか兄さん! あかちったら彼氏ができてからあたしに冷たくなっちゃったんですよぉ!」
「えっ? そうなの?」
「そんなことない。あかりは通常運転」
「彼氏ができる前までそんな風に否定しなかったのにー わ~ん!」
原田さんの絡みに明莉は僕へ助けを求める目で見てくる。いやはやどうしたものか。明莉は冷たくしているつもりはないのかもしれないけど、彼氏さんへ時間を割くようになったことで原田さんと絡む時間が減った可能性は十分ある。
「まぁ、とりあえず今日はテスト勉強するということで、その問題は休憩時間にでも聞くよ」
「だって、ちゆりん。ほら、離れて離れて」
「うえーん……あか兄さんはあかちからの対応変わってないんですか? 何も感じませんか?」
「うーん……特にないかな」
「そうなんですか。やっぱり兄妹だと違うのかな……」
「そんなに落ち込まないで。詳しい話は後で本当に聞くから」
「あか兄さん優しい……あたし、あか兄さんと付き合っちゃおうかな~」
「「えっ!?」」
唐突な発言に僕と明莉は声を揃えて驚く。それを見た原田さんは少し悪戯な笑みを見せた。
「いやぁ、前からあか兄さんいいと思ってたんですよ。あかちから散々いいところは聞かされてきましたし、優しくて頭も良くて理想的な男子だと思います」
「ちょ、ちょっと、ちゆりん!?」
「それに友達のお兄さんって不思議な魅力あるんですよねー」
「…………」
「お兄ちゃん!? 何その気になってるの!?」
「な、なってないよ!」
「え~ あか兄さん的にはあたしはダメなんですか? それとも今は他に好きな人がいるとか?」
「それは……その……」
その言葉に詰まった瞬間、原田さんはおふざけ気味の態度を辞めて急に静かになる。それから明莉と顔を見合わせると、2人して僕の方へ近づいて来た。
「いるんですか!? 好きな人!?」
「お兄ちゃん!? やっぱり最近怪しいと思ったらそうなの!?」
「な、何も言ってないでしょ」
「いやいや、ここ数週間辺りであか兄さんの様子がちょっとおかしいってあかちから聞いてたんですよ! どこの誰ですか? 同級生?」
「なんで僕の様子が変なことを共有してるんだ!?」
「だって、絶対何かあると思ったんだもん! それで本当に誰なの? あかりが知ってる人?」
「あーもう! 勉強しに来たんだから勉強始めますよー!」
強引にその場を切り上げた僕は数分間2人からあれやこれや言われるけど、黙秘を貫いたことで何とかテスト勉強を始めてくれた。
でも、休憩時間にはまた質問攻めに合ったので、僕はいつもの倍疲れることになった。
結局、なんやかんや言いながらも学校で兄の変な様子を共有するくらいには仲が良いので、原田さんの寂しさは一時的なものだろう。
ただ、付き合うと言われた時は割とびっくりしてしまった。2歳下なら全然付き合ってもおかしくはないけど、妹と同年代かつ友達である子と付き合うのは、よほど好きじゃないと気まずさの方が勝つと僕は思う。
……なんてことを明莉に話したら断る前提でもキモがらてしまいそうなので、ここに記しておくことに留めよう。
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