6月23日(木)曇り 停滞する清水夢愛その9
まだまだ曇り空の木曜日。この日の放課後、僕は清水先輩とぶらぶら歩くことになる。ちょうど1週間前には色々あったけど、今回はそれとは関係なく清水先輩が暇だったから呼び出された。
「梅雨だからもっと出かけづらくなると思っていたが、意外にそんなこともないな。ちょっと降ってくれた方が涼しくなっていいんだが……でも、良助的には自転車だし、降らない方がいいって言ってたな。そういえば、最後に合羽着たのっていつだろう。いや、そもそも合羽着た事あったかな? 小さい頃は雨なんて気にせず……良助?」
「は、はい! な、なんでしょうか!?」
「いや、反応がないからどうしたかと思って。疲れてるのか?」
清水先輩は少し首を傾げながらそう聞いてくる。もちろん、僕は別に疲れていなかった。でも、本当の理由を言う代わりに何と答えたらいいかわからない。
今までも並んで歩いたり、放課後の時間を共にすることはあったりしたのだけど、今日は過去最高にドキドキしていた。恐らく移動水族館へ行った時よりも。
その原因は確実に先週の発言のせいだ。告白として取られなかったことはわかっているけど、僕の方は自覚がある状態だから否が応でも意識してしまう。
しかし、これからも話していくのだから、毎回こうなっていてはまともに話ができない。今のうちに平常心を取り戻しておかなければ……と思った時だった。清水先輩は不意に手を伸ばして僕のおでこを触る。
「なっ!?」
「うーん……ちょっと熱っぽいか? 私がそんなに体温高くないのもあるかもしれないが、夏風邪だったら早めに休んだ方がいいぞ」
「だ、大丈夫です! ちょっと疲れてるだけなんで!」
「おお、元気になった。それならもう少し歩こうか」
そう言って手を離す清水先輩。なんだろう。清水先輩って前からこんな距離間だったっけ? 割と距離が近い人ではあったけど、今の僕には余計心臓に悪くなっている気がする。
ただ、そういうことを平気でやってくるのはやっぱり先週の僕の「好き」は違う好意として受け取られたのだろうか。
そう考えた時、僕は以前に清水先輩が告白を断っていた場面を(桜庭先輩と一緒に)目撃したことを思い出す。あの場面で清水先輩は確実に好意を伝えられて、それに対する断りの言葉をかけているはずだ。いったいどんな風に断ったのか……
「清水先輩」
「ん? どうした?」
「あの……」
いや、普通に考えて聞けるわけがない。そもそもその人は清水先輩と知り合いですらないので、僕の状況には当てはめられないはずだ。
「……なんでもないです」
「良助、今日はどうしたんだ?」
「あっ、いえ……」
「今日は悩み相談とかじゃないんだから、余計なことは考えなくてもいいんだぞ?」
「そ、そうですよね。わかりました」
「……あんまり他のことばかり気にしてると、私もちょっと寂しいんだからな」
清水先輩は少しふくれっ面になりながら言う。それを見た僕は……
(か、かわいい……!)
まるで嫉妬しているように見えてそう思ってしまった。実際には清水先輩に悩まされているのだけど、絶対に相談できない悩みだ。
そんなこんなで暫く清水先輩の前での僕はポンコツになってしまうかもしれないと実感した日だった。
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