5月17日(火)曇り 後輩との日常・桐山宗太郎の場合その2

 過ごしやすい気温の火曜日。早めに範囲まで終わった教科は復習の時間にしてくれるなど、テスト前らしい授業内容もあった。


 そして、テストの週に入っているということで、文芸部は来週の金曜日まで休みになっていた。

 一応、部室を自習室として使っていいと新入部員に言っておいたけど、今のところ使いたい人はいないようだ。


 そんな日の放課後。今日は一人で帰宅しようと下駄箱まで来ると、聞き覚えのある声が近くから聞こえてきた。


「結局、宗太郎はどうするの? この後のファミレス」


「俺は遠慮しとく。人いるとこだと集中できないだろうし」


「そーかぁ。ところでさ、昨日見た動画なんだけど――」


 そちらへ眼をやると、桐山くんと恐らくそのお友達がたむろしていた。その中で桐山くんは集まりを断っていたようだけど、そのまま会話が続けられていた。

 すると、桐山くんも僕のことに気付いたようで、お友達に断りを入れてからこちらへ近付いてくる。


「お疲れ様っす、産賀先輩」


「お疲れ様。なんかごめんね、わざわざ声かけさせに来たみたいで」


「いえいえ。ちょうど抜けるタイミング窺ってたところだったんで良かったっすよ」


「他の子はこれから勉強会する感じ?」


「あっ、聞こえてたんっすね。そうみたいっす。でも、食べ物の匂いとかするとたぶん集中できないと思ったんで」


「それはあるかもね。桐山くんはいつもは自宅で勉強してるの?」


「そうっすけど……逆にどこで勉強するんですか? 産賀先輩も帰ってるってことは部室使ってないみたいですし」


「自宅以外だと図書館は時々使うよ。学校の図書室も友達と行く時があるかな」


「あー、定番っすよね。俺は近場に図書館ないからあんまりテスト勉強には行きませんけど……」


「それなら図書室を使ってみてもいいと思う。うちの図書室はテスト期間中もそんなに人多くないし」


 静かで集中できるのになぜ利用者が少ないか疑問だったけど、先ほどの桐山くんのお友達のように別で集まっていることが理由かもしれない。そのおかげで穴場として利用できるのはありがたいけど。


「なるほど、参考になります。ただ、俺の友達は逆に図書室はダメって言うかもしれないっすね……」


「だったら、文芸部の人を誘ってみてもいいんじゃ……あっ、ごめん。さすがに女子は誘いづらいよね」


「……それっす!」


「えっ?」


「文芸部内で勉強会すれば姫宮さんと合法的に同じ時間を過ごせるじゃないっすかぁ!」


「ご、合法的……」


「あっ、もしかして部室を使ってもいいってそういうことだったんすか!? それなら早く言ってくださいよ~」


「いや、そういうわけじゃ……」


「そうと決まれば明日辺りに計画してみますわ! 産賀先輩も来てくれますよね?」


「あ……ああ、うん。テスト勉強に使うならもちろん」


「よーし。まずはどう誘うのがいいか……あっ、産賀先輩に前振りして貰ってもいいですか?」


 その後、少しだけ桐山くんの作戦会議に付き合わされてから帰宅することになった。


 なんと言うか、友達と話している時の桐山くんは真面目そうな印象を受けたのだけど、今のところ姫宮さんが絡んでしまうと、少し暴走気味になってしまっている。

 決して悪い子ではないから僕も嫌な気持ちにはならないけど、今後は言葉選びに気を付けた方がいいかもしれない。


 ちなみに部室での勉強会は姫宮さん含む他の新入部員3人が行かないと言ったので開かれないことになったとさ。

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