2月15日(火)曇り 心配とカテゴライズ

 我が高校の入試1日目となる火曜日。この日は筆記試験が行われる。1年ほど前の記憶を何とか思いだしてみると、あの時は知らない校舎で試験を受けるというだけで凄く緊張していた気がする。


「あ~ どうしよう、りょーちゃん! もうすぐ昼休みだよ!」


 そんな中、在校生の僕たちは休日となっていて、僕は一人家で過ごすものだと思っていたが……この日の午前中に松永が連絡もなしにうちへやって来た。

 それ自体は別に構わないし、来た理由が伊月さんが試験を受けていると思うと落ち着かないというのもわからなくはないけど、さすがに落ち着きが無さ過ぎる。


「あんまり覚えてない僕だけど、試験当日の松永がそんな感じではなかったのは確かだぞ。なんで自分が受けてない時の方が焦ってるんだよ。伊月さんってそんなに勉強できないタイプなのか?」


「そんなことはないけど、気になっちゃうんだよ。こう見えて俺は繊細だから……」


「繊細じゃないとは言いづらいけど、もう少し落ち着けって。伊月さんにそんな様子見せたら絶対駄目だぞ」


「そこは心配ない。茉奈ちゃんの前だとカッコつけてるから」


 それが彼氏彼女の関係として正しいのか僕にはわからないけど、少なくとも松永はこういう一面はあまり出さないようにしているのだろう。だけど、僕の予想だと伊月さんには見抜かれている。


「とりあえず昼ご飯どうするんだ? 僕はカップ麺で済ませようと思ったんだけど」


「あっ、それなら一旦コンビニ行って戻ってくるわ。りょーちゃんもなんかいる?」


「別にいらないよ。というか、カップ麺でいいならうちの食べて言ってもいいぞ」


「じゃあ、ごちそうになろうかなー りょーちゃん家はどういう系統買ってるの?」


 試験から気を逸らせたのか、それともご飯は話が別なのか、松永はいつも通りの様子に戻る。それから各々好きなカップ麺を作り終えると、昼の番組を流しながら昼食タイムになった。


「なんか変な感じだ。普段は平日で学校に行っているのに、松永と家でカップ麺をすすってるの」


「確かに。これは小中学校時代にもなかった気がするわ。でも、お行儀悪くカップ麺だけで済ませるのちょっと自由な感じしない?」


「わかる。めっちゃくだらないけど」


 おもてなしで考えるとカップ麺はあまり良くないだろうし、居間で適当な姿勢で食べる姿はマナー的には最悪だった。でも、この感じは心地良い背徳感というか、いけないことをしているからこそ楽しい感じがある。


「……茉奈ちゃんもちゃんと食べれてるかなぁ」


「そんなお昼ご飯食べられないほど緊張することは……人によるか。僕はそんな覚えはないけど」


「俺も普通に食べてた気がする」


「じゃあ、なんで伊月さんだとそんな……いや、松永がそう感じてるならあるのかもしれないけど」


「いや、茉奈ちゃんは結構真面目だから……ん? それで言ったらりょーちゃんも真面目だけど、試験中に胃が痛くなるとかそういうのなかったの?」


「真面目なやつが胃痛キャラみたいな風潮はなんなんだ。まぁ、僕も緊張はしていたけど、ご飯が喉を通らないとか、緊張がお腹に影響したとかはなかったよ」


 それこそ受験に持っていくべきと言われて使わなかった物の中には胃腸薬もあった気がする。備えあれば患いなしと言うけど、今まで生きてきた中でそんな状態になったことはなかったから最初から持ち腐れだったと思う。


「……なら、茉奈ちゃんも大丈夫か」


「なにその納得の仕方」


「いや、俺的にはりょーちゃんと茉奈ちゃんは同じタイプだと思ってるから。りょーちゃんも俺に対してそういうカテゴライズ的なやつあるでしょ。誰と似てるなーって」


「まぁ、言わんとしていることはわかる。そうか、僕は伊月さんと同じタイプか」


「はー 安心したらお腹物足りない気がしてきた。やっぱコンビニ行ってくるわ」


 謎の納得で本調子を取り戻した松永はそのままコンビニへ向かって行く。


 その後は普通に僕の家でダラダラとした時間を過ごして夕方に明莉の姿を見てから松永は帰宅した。


 松永がここまで心配するのはそれだけ伊月さんのことを想っている証拠だから良いことだと思う。

 だけど、そこから安心する要素を僕から見出すのは……上手く言えないけどなんかムズムズした。たぶん、今日のことは伊月さんに言わない方がいい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る