2月5日(土)雪のち晴れ 明莉との日常その34

 まだ雪が降る土曜日。本日は明莉が部活から帰宅後にバレンタインチョコの材料を買い出しに行くことになった。チョコは冷やす時間を含めると結構前から作り始めないといけないし、直前になるとバレンタイン需要で必要な材料が売り切れてしまうから今日が一番いいタイミングになる。


 ただ、一番いいタイミングだけに気にしてしまう点がある。


「なぁ、明莉……僕も付いて行かないと駄目なの?」


「何言ってんの。りょうちゃんも作るんだから」


「いや、僕はちょっと手伝うだけだし……」


 それは恐らく同じようにチョコの材料を買いに来る方々と鉢合わせになるのがちょっと気まずいからだ。十中八九女性の方が多い中で男子の僕が買いに来ている姿は何か思われることはないとしてもやっぱり恥ずかしい。


 しかし、結局は明莉のお願いに押されて僕は近くのスーパーにやって来る。店内ではバレンタインの特設コーナーができていて、僕が来た時も数人がそのコーナーを見ていた。明莉も吸い込まれるようにそちらへ行こうとしたけど、今回は本題ではないので先に材料を買いに行くよう促す。


 ここ数日の手作りチョコ調査の結果、一番多かったのは既に出来上がったチョコ商品を溶かして、色々なチョコへ派生しているパターンだった。チョコ商品の公式サイトにはそれを見越したレシピが載っているので比較的作りやすいし、基本ができていれば味的に間違うことがないのは材料として最高の条件なのだ。


 そのことを明莉には事前に話しておいたので、どのチョコ商品で何を作るかは明莉に任せることにした。


「うーん……りょうちゃんって板チョコの違いって何かわかる?」


「……わからない。ミルクチョコレートとそれ以外ならわかるけど、商品ごとの違いは考えたこともなかった」


「じゃあ、両方買って見るとかどう?」


「混ぜたらわからないかもしれないけど、最初は1つに絞って作った方が良さそうだけどなぁ」


 そんな会話をしながらベースの板チョコを選んでいく。商品棚にはいつも以上にチョコが多くあるけど、全体的に減っているように見えるからやっぱり今日明日辺りに買っておく人は多そうだ。


「よし、板チョコはこれにする! 次は……生クリームとかいるんだっけ?」


「だいたい入ってるけど、どのチョコにするか決まったの?」


「うん。生チョコにする。めちゃくちゃ被るとは思うけど、ちょっとアレンジすれば差は出せると思うし……何より味見する時にあかりも食べられる!」


「まぁ……大事なところだから否定できない」


 何個も味見することはないだろうけど、そこで自分が美味しく食べられる物にしておけば誰かに渡す時も安心できると思う。


「そういえばぶっつけ本番で作っていいものなのかな……もうちょっと板チョコ買い足しとくか……?」


「その辺は何も書いたり聞いたりしてないの?」


「してない。既存製品を使うから不味くなることはないだろうけど……」


「それじゃあ、今日帰ってから作ってみようよ。それが上手くできたら来週本番ってことで」


「……言っておくけど、明莉も作るんだからな」


「わ、わかってるよー」


 明莉は少し目を逸らしながら言う。明莉の料理の腕を疑っているわけじゃないけど、先に僕だけ作って明莉が失敗したら意味がない。というか、そもそも僕が作れるようになっても仕方ないのだ。


 そんなこんなで想定よりも多めに材料を買い込んだ僕と明莉は帰宅するとお試しで生チョコを作り始めた。作るための道具は家にあったから良かったものの、一から用意するとなると、結構お金がかかるものである。

 僕はバレンタインチョコを貰った経験が……ほとんどないけど、そんな苦労があって出来上がった手作りチョコなら何倍返しを求められても納得がいくと思った。

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