7月7日(水)雨 大倉伴憲との日常その5

 ロマンチックな七夕とは無縁の期末テスト初日。科目は全部で13科目で中間にはなかった保健体育や情報処理が追加された。そして、座席は出席番号順に戻されるので隣の大山さん以外は久しぶりの景色になる。


「大倉くん、大丈夫?」


「だ、大丈夫……だといいなぁ」


 先週から前日の2日間の休み時間で大倉くんは教科書やノートを読み込んでいた。前回の大倉くんのテスト結果は合計点で見ると、そこそこできた松永よりも下だったから今回こそがんばろうと思っているんだろう。だけど、肩に力が入り過ぎてる気がする。


「そうだ、大倉くん。文芸部の先輩が言ってたけど、テストの前やテスト中に頭が働かない時は腹式呼吸するといいんだって。集中力が上がって、緊張も少しほぐれるらしいよ」


「そ、そうだね。ボクもちょっと聞いたことある。えっと、具体的なやり方は……」


「お腹を膨らませるように鼻で息を吸って、口をあまり開かないで吐き出してお腹を凹ます。何回やるかは……忘れちゃったけど、とにかくやってみよう」


 それから僕と大倉くんはソフィア先輩式腹式呼吸を数回繰り返す。ラジオ体操の深呼吸に何の意味があるんだろうと思った時期があったけど、息が整えるためとわかったら何故か意味がある気がしてくるからこの腹式呼吸もそういう効果なんだろうか。


「う、うん……ちょっと落ち着けた気がする」


「それは良かった。緊張して実力発揮できないと勿体ないから」


「ぼ、ボクの場合は単に勉強不足もあると思うけど……」


「そんなことないよ。ここ数日、大倉くんががんばってるの見てたし。このテストが終わったら……また通話繋げながらゲームして遊ぼう」


「う、産賀くん……その言い方ちょっと死亡フラグっぽい……」


「そうかな? じゃあ、僕たちの戦いはこれから……」


「そ、それだと打ち切りエンド……」


「……あれ? 僕も緊張してる……?」


「ぷっ! ……あっ、ご、ごめん! 笑っちゃいけないよね……」


「いや、笑ってくらいがちょうどいいと思う。でも、おかしいな。僕も腹式呼吸をしたはずなんだけど……」


 それからすぐにテストが始まったけど、僕からすれば腹式呼吸の効き目はわからなかった。でも、大倉くんの方は緊張が解れたようなので、僕の謎ボケも役に立ったのかもしれない。

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