6月27日(日)曇り 明莉との日常その12

 松永襲来の翌日。朝食を食べ終えた僕は居間で衝撃の光景を目にする。


「明莉、何やってんの……?」


「ファブリーズ」


「いや、それはわかるんだけど」


 明莉が消臭スプレーをやたらかけているのはたぶん昨日、松永が寝転がったりしていた場所……つまりは明莉のスペースだった。


「だって、まっちゃんが転んだとこにそのまま転ぶのなんか嫌じゃない?」


「そんなに嫌なのか……」


 僕か父さんがやられたら普通に泣いてしまいそうだ。松永は軽く受け流せそうだけど。


「明莉って松永にはなんか厳しいけど……もしかして、明莉は松永のこと生理的に無理だったりするの?」


「それは言い過ぎじゃない? まっちゃん泣いちゃうよ?」


「いやいや、明莉がそう思わせるようなことしてるんじゃないか」


「そう? でも、家族以外の男が転んだところに平気で転ぶ女の子って逆に変じゃない?」


 そう言われると、僕は兄の視点でそうされたら泣いちゃうと思っているから家族以外だと話が変わってくるのか。逆に考えてみよう。もしも明莉の友達が僕がいつもいるスペースに転んでだとして……何故だろう。僕の場合だと気にして消臭スプレーかけてたら感じ悪いし、わかってて転んでもそれはそれで気持ち悪いヤツな気がする。いつも誰が転んだりしてるかは考えないようにしよう。


「まぁ、女の子的な感覚なのか……」


「そもそも生理的に無理だったら混ざって遊んだりしてないって」


「確かにそうか。明莉も松永とは長い付き合いだし」


「よく遊びに来てたしねー 昨日は本当に久しぶりだったから結構びっくりしたよ」


「会うの自体久しぶりだっけ? 松永は中学二年生になってからは会ってないって言ってたけど」


「うーん、去年の冬頃に買い物してて会ったような? りょうちゃんがいたかは忘れた」


「なるほど。松永がアクティブだから外で遊んでて遭遇するのは十分ありそうだ」


 明莉の話しぶりからして松永が悪い印象でないことはよくわかった。これで本当に生理的に無理だったら僕は妹と友人を天秤にかけて悩んでいただろう。特に松永は許可なく家に来てしまうのだから。


「でも、まっちゃんは時々兄貴面するのはちょっとなー」


「それは……ほら、松永は弟や妹いないからお兄さんらしいことを体験したいんじゃない?」


「それをあかりに押し付けるのはどうなのってこと。……もうちょっとかけとこうかな」


 その後も明莉は暫くの間消臭スプレーをかけていた。別に嫌いではないんだろうけど……兄の友人と妹の関係は僕が思うより複雑なんだろう。

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