6月26日(土)曇り 松永浩太の昔話その2
6月最後の土曜日。早朝から僕のLINEへ松永からの連絡、しかも通話がかかってきた。
『今日りょーちゃんとこ遊びに行くから。あっ、昼は食べてから行くね』
僕が返事をする前に通話は切れたので松永が来ることは確定した。
それからちょうど僕が昼ご飯が終わって少しすると、タイミングを見計らったかのように松永がやって来る。
「やぁやぁ、りょーちゃん宅、久しぶり」
「お前なぁ……切る前に許可取ったらどうなんだ」
「りょーちゃん土曜日は基本暇って言ってたじゃん」
「それはそうなんだけど……というか、部活は?」
「今日は行っても行かなくてもいい日的な?」
「その言い訳前にも聞いたな」
そんな会話をしながら松永は自然に玄関を上がり、居間へと進んでいく。久しぶりだけど、勝手がわかったままのようだ。
「今日は家に誰かいるの?」
「父さんがいるよ。自分の部屋で寝てるか、テレビ見てるはず」
「じゃあ、挨拶は見かけた時でいっか。明莉ちゃんは部活?」
「うん。15時過ぎには帰って来るかな。それで、今日は何するんだ?」
「テレビつけてゴロゴロしながらスマホとか漫画とか見る」
「それ、僕の家でやる必要ある……?」
「じゃあ、りょーちゃんの部屋で隠してるお宝探し?」
「……ゴロゴロするか」
明莉は友達を平気で部屋に入れるけど、さすがに僕はできない。隠したいものがあるわけじゃないけど……何となく嫌だ。
「カルピスとカフェオレしかないけど、どっちがいい?」
「カルピスでおねがーい」
「お昼食べたばっかりだからお菓子はまだいいか」
「お構いなーく」
「漫画は部屋にあるからいくつか取ってくるけど?」
「うーん、適当に何冊か取って来てー」
既に寝転んでいる松永といろいろな準備をする僕。どちらが家の主がわからなくなるけど、遊びに来られた側が世話しなく動くのはよくあることだと思う。
「漫画持ってきたぞ。おっ、そのドラマ再放送やってたんだ」
「サンキュー。この時間で一気見できるの結構いいよね」
「遅い時間で毎週見るのは結構大変だからなぁ……ところで、唐突にうちへ来ようと思ったのはなんで?」
「えー、なんとなく……と言いたいところだけど、テスト前にいろいろ昔話したじゃん? それで久しぶりにりょーちゃん宅へ遊びに行きたくなって、タイミング的に今日は行けそうだったから」
確かに松永と遊ぶことはあってもこんな風に家に来るのはいつぶりかわからない。小学校の時ならお互いの家のどちらかで週に一回以上遊んでいたけど、中学で部活が始まってから(僕は幽霊部員だったが)家で遊ぶ機会はかなり減っていた。
「そうだ。昔話ついでだけど……りょーちゃん、小3か4年で自分のことを書くアンケート提出したの覚えてる? ほら、親と一緒に相談しながら書くやつ」
「あー……なんかあった気がする」
「今だから言えるけど、あれの一番仲がいい友達の項目、りょーちゃんって書いたんだ」
「へぇー」
「えっ。蔵出し情報なのにリアクション薄っ! りょーちゃんは誰って書いたの?」
「誰だったかなぁ」
「えー!? そこは俺のこと書いて相思相愛になるとこじゃん」
僕は適当に笑って誤魔化すけど……たぶん、僕も松永の名前を書いた。いや、松永しか書けなかったと思う。一番仲がいいだなんて人によっては意地悪な質問だし、複数人書いた人もいるんだろうけど、それでも僕は一番と言われたら松永だけを書いたに違いない。
そんな松永とも先に書いたように中学では部活が始まって、更には1年クラスは別だったことで、疎遠になりかけたこともあった。お互いに新しい環境に慣れるのに必死だったのか、すれ違うつもりがなくても距離は遠のいてしまったのだ。
「りょーちゃん、そっちの漫画取ってー」
「んー」
その後、2年でクラスが同じになると、僕と松永の距離はほぼ元に戻った。休み時間に話したり、部活がない日は一緒に帰ったり、休日は遊んだり……当たり前の日々が帰って来たのだ。これが同じクラスになっていなければどうなっていたんだろう。恐らく僕からは声をかけるのが難しくなっていたかもしれない。
「飲み物おかわりは?」
「今度はカフェオレお願い」
じゃあ、松永の方はと考えると……これは願望でしかないけど、何かのタイミングで今日みたいに連絡を寄越してくれる気がした。僕が冷めていると言われるかもしれないけど、そうしてくれるような信頼はある。言葉で言い表すには少し難しいけど。
そして今、受験を終えてひと回り以上大きくなった高校生の僕たちは小学生以来のダラダラとした時間を過ごしている。
「まぁ、こういう日も悪くないか」
「なんの話?」
「それよりお菓子なんか出すわ。たぶん、ポテチくらいなら買い置きが……」
「ただいま~ あー!? なんでまっちゃんいるの!?」
部活から帰って来た明莉は久しぶりの松永を見るや否やそう言う。
「おっ、中二病の明莉ちゃんもお久しぶり~」
「中二病じゃないし! とういか、そこ明莉のスペースなんだけど!?」
「うわっ!? クッションで叩かないで! ごめんって……相変わらず俺には厳しいなぁ」
明莉が帰って来て一気に騒がしくなった後はこれまた懐かしく三人でゲームで遊んだとさ。
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