6月17日(木)晴れ時々曇り 桜庭小織の気遣いその2

「産賀くん、ちょっといいかなー?」


 昼休み。昼食を取り終えた僕たちが教室で喋っていると、クラスの女子が僕のことを呼んだ。松永から若干の冷やかしを受けるけど、僕はその女子と全く関わりがない。


「桜庭先輩が用事あるから呼んで欲しいって言われたんだ。廊下で待ってるみたい」


「あー……うん、わかった。ありがとう」


「ねぇねぇ、産賀くんって桜庭先輩と何の知り合い?」


「共通の知人がいる……的な?」


 興味津々な女子にそう答えてから廊下へ向かうけど、今のところ用事はさっぱりわからない。僕と桜庭先輩の関わりは今言った共通の知人しかないので、個人的に呼ばれることがあるだなんて想像もしてなかった。


 廊下を出て、窓際に待っていた桜庭先輩は相変わらず柔和な表情で僕を見る。


「ごめんなさいね、急に呼び出して」


「あっ、いえ全然。それで僕に用事って何ですか?」


「月曜日、夢愛に焼きそばパンをくれたでしょ? そのお代を持ってきたの」


 桜庭先輩は小銭を僕に渡す。突然のことに僕はその小銭を見つめてしまった。


「ちゃんと焼きそばパン分の値段になってるはずよ。あ、もちろん、夢愛から貰ったお金だから遠慮なく受け取ってね」


「わ、わざわざありがとうございます」


「本当はその日のうちにって思ったけど、夢愛が産賀くんがどのクラスか知らなかったからちょっと時間が空いてしまったの。それで上級生が1年のクラスを一つずつ見て回るのはどうかなと考えてたら、ちょうど茶道部の子が同じクラスとわかったからちょうど良かったわ」


「そういうことだったんですね」


 そう言いつつも貰った本人である清水先輩ではなく、桜庭先輩が払いに来るのはどうにも変な感じがしてしまう。清水先輩が僕のクラスへ直接乗り込んできたら、それはそれで困るけど。


「でも、産賀くんも相当お節介ね。お昼買わなかったくらいでパンあげるなんて」


「いえ、僕はたくさんパン買ってましたし、あのままだと昼は食べないとか言ってたのでつい」


「夢愛の言うこと、信じちゃったんだ」


「そ、そうですよね、いくら何でも食べないなんて……」


「ううん。産賀くんの考えは正しいと思うわ。夢愛なら全然やりかねない。だけど、産賀くん。一つ言っておくと……」


「はい?」


「過度なお節介は人によっては迷惑になるわ」


 桜庭先輩は柔和な表情を変えずに、けれど圧がある空気でそう言う。


「す、すみませんでした」


「あら、今回のことは別に良かったのよ、結果的に。でも、これからは気を付けた方がいいと思うわ。あまり首を突っ込み過ぎると、痛い目を見るのはお節介した方なんだから」


 決して怒っている口調ではないけど、淡々と言う桜庭先輩に、僕は委縮して聞くことしかできない。


「時間を取らせてごめんなさい」


「いえ、全然……」


「それじゃあ、引き続き出会うことがあったら夢愛の相手をしてあげてね。さようなら」


 そして、言いたいことを言い終えたであろう桜庭先輩はすぐに去って行った。




「りょーちゃん、何だったの?」


「……貸してたお金が返ってきた」


「なーんだ。それだけかぁ」


 本当にそれだけなら良かった。でも、僕はまた桜庭先輩に気遣って貰ったみたいだ。……いや、桜庭先輩が真に言いたいことはその奥にあるものなのかもしれない。

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