6月4日(金)雨のち曇り 岸本路子との交流その6
部室で雑談する日(もはやそう言う方が正しい)。火曜日の件を経て、僕や先輩方は岸本さんと友達になった。
「産賀くん、お疲れ様」
だからといって何かが大きく変わるわけじゃない。言葉には出していなかったけど、僕らはこれまでの間に部員であり、仲間であり、その延長線上で友達になっていたはずだし、友達じゃないと思っていた岸本さんも気付かないうちになりかけていたはずだ。
「今から時間大丈夫?」
「大丈夫だよ。いつも質問?」
「ううん。今日は……普通の話でも。良かったら……だけれど」
だけど、質問じゃない会話の始まりは少しだけ変わり始めた証拠なのかもしれない。今までは特定のことを聞かれるばかりの関係だったから今日からは良い意味で下らないと言われてしまうような普通の話ができるのだ。
「もちろん。そういえば、岸本さんはテストはどうだった?」
「うっ……」
しまった。いきなり外れを引いた。明らかに痛いところを付かれた顔する岸本さんの答えは言わなくてもわかってしまう。
「え、えっと、何か不得意な科目が駄目だったとか……?」
「産賀くん。わたしって勉強できそうに見える?」
暗い靄がかかったような雰囲気を出しながら岸本さんは聞いてくる。これもまた言わなくても正解がわかってしまうけど、嘘を付くわけにもいかない。
「う、うん。できると思う……思ってた」
「そう、よね。確かにわたし、真面目そうに見えるから何となくできそうって言われることもあるわ。もちろん、できる教科はあるの。現代文とか古典とか文系は得意って言える。でも……その、今回は数Ⅰが……赤点」
「ま、まぁ、両方得意って言う人は珍しいからね」
「産賀くんは何の教科が得意なの?」
「……現代文と数Ⅰ」
そう言うと、岸本さんに訝しげな目で見られてしまった。普段でも変だと言われるけど、この流れだと尚更良くないやつだ。
僕は流れを変えるため、話を外へ振る。
「そ、ソフィア先輩! 補習とか追試の内容わかったりします!?」
「…………」
いつもならばテンション高く答えてくれそうなソフィア先輩はスンとした表情でこちらを見てくる。
「ソフィア先輩、どうしたんですか? 体調悪いなら……」
「違うの。ソフィア、岸本ちゃんの件で喋り過ぎないように反省したから、反射的に喋らないようにしようと思って」
先日の岸本さんが真実を話した過程でソフィア先輩の喋りが絡んだことは事実だ。僕からすればソフィア先輩の積極性は間違っていないと思うけど、それでも思うところがあったらしい。
僕と岸本さんのところまで近づいてきたソフィア先輩は岸本さんに向かって言う。
「岸本ちゃん、ソフィアが答えても大丈夫?」
「大丈夫です。ソフィアさんは……友達ですから!」
その言葉にぱあっと表情を明るくしたソフィア先輩は一気にエンジンがかかりだす。
「ソフィアは受けたことないけど、確か数学系は簡易的な再テストを受ける感じかな! そうだよね、森ちゃん部長?」
ソフィア先輩の振りに森本先輩は頷く。確認される森本先輩は赤点経験者なのだろうか。
「それより岸本ちゃんがそういう状況なら再テスト受かるための勉強しなきゃ! ソフィアたちも協力するよ!」
「えっ!? でも、部活でそこまでして貰うのは……」
「ソフィアたちは友達なんだからできることは応援するの! ほら、ウーブ君も得意なら教える準備して!」
ソフィア先輩は喋らない間もしっかりと話は聞いていたみたいだ。岸本さんは相変わらずソフィア先輩に気圧されている感じはするけど、まんざらでもない感じだからこれで正解なのだろう。
ただ、僕の方は……もう少し探りながら普通の会話をする必要がありそうだ、友達として。
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