6月5日(土)曇り 清水夢愛との時間その4
「良助、お出かけか?」
遡ること数分前。明莉のテストも終わり完全な休日が戻ってきた僕は有意義な休日にするため出かけることにした。目的地はゲームショップもしくは本屋だ。特に何か買う用事がなくてもこの2店舗は適当に見ているだけで楽しい気分になる。たまに掘り出し物が見つかることもあるし、何もない休日ではお決まりのお出かけパターンだった。
それから自転車で自宅を出て店が集まる場所へ向かい始めた矢先、僕は清水先輩とエンカウントを果した。
「清水先輩……こんにちは」
そして、冒頭に戻る。この辺りは普段の行動範囲だけに、こんなところで会うと思ってなかった。これは凄い偶然かもしれない。
「今日はいい天気だから散歩しててな。適当に目的地を考えていたら、そういえば前に良助の家がこっちの方にあると聞いたのを思い出して歩いていたら……」
「偶然じゃなかった!? その散歩の仕方ちょっと怖いからやめてください!」
ぎりぎり知り合いだからセーフだったけど、やる人とやられる人がちょっと変わっていたら何らかの事件になっていたかもしれない。
「どこか怖いんだ? 散歩は自由気ままに歩くものだろう」
「ま、まぁ、そうですけど……そもそも西中の方向から歩いたのなら結構遠かったのでは」
「お? 良助は私の出身中学知ってるのか?」
「えっ? 桜庭先輩に教えて貰ったんですけど……」
「おお、あれから小織にも会っていたのか」
純粋に驚く清水先輩を見て、桜庭先輩は僕と会った話を清水先輩にはしていないことがわかった。まぁ、内容が清水先輩に関わる……どちらかといえばネガティブなことだったから喋らなかったのかもしれない。
「はい。清水先輩と初めて会った図書館でたまたま。その時にここまでは自転車でそこそこかかるって言ってた気がします」
「そうらしいな。私は自転車乗れないからわからないが」
「ええっ!? の、乗れないって」
「いや、語弊があるな。補助輪付きならたぶん乗れる」
それなら誰でも乗れるとツッコむ前に、その言い方からして自転車自体に乗ったことがなさそうだ。時々そういう人がいるとは聞くけど、実際に会うと結構びっくりする。お世辞にも交通機関が整っているとは言いづらいこの周辺で自転車は重要な足なのに。
「じゃあ、桜庭先輩と図書館に来た時は……まさか二人乗りを?」
「いや、その時は小織のおばさんに送って貰った」
「さすがにそうですよね」
「そうだ。二人乗りと言えば、今日は良助の……」
「だから二人乗りは駄目なんですって」
「むー 今のは良助から言い出したんだぞ」
初めて見るふくれっ面に僕はちょっとだけドキッとした。忘れていたけど、この人は我が高校が誇る五大美人で……それを置いといても眩しいタイプの人ではある。
「それより引き留めて悪かったな」
「えっ? ああ、それは大丈夫ですけど……お言葉に甘えてそろそろ行きます」
「ちなみにどこへ行くんだ?」
「本屋かゲームショップの予定です」
「ほー この辺の本屋は知ってるがゲームショップか。行った覚えがないな」
「そうなんですね。それじゃあ……」
「どの辺りにあるんだ?」
解放してくれる流れだと思ったら、妙に喰いつかれてしまった。いつの間にか自転車の傍にぴったりと近寄られていたので、適当に流して去れそうもない。
「ここから一番近いとこだったらこのままの方向に行って、自転車なら10分、徒歩なら20分くらいです。千円カットの散髪屋とか古着屋がある方で……」
「ふむふむあの辺りだな。散歩ついでにちょっと行ってみるか」
「清水先輩もゲームするんですね」
「うーん……家にゲーム機は一通りあるから、気が向いた時にはやる感じだ。それで良助はどっちに行くんだ?」
「えっと……それは」
「ゲームショップなら行き先は同じだな」
一応言っておくと清水先輩は圧をかけているわけじゃなく、恐らく純粋に聞いているだけだ。だから、僕が本屋に行く選択をすれば、当初の予定通りゆるりとした休日を過ごせる。
「……ゲームショップに行きます」
「おお! だったら一緒に行こう。良助のおすすめも聞きたいからな」
「はい。でも、歩いてですから20分くらいかかりますよ」
「私が走ってもいいんだぞ?」
「それは僕が嫌なので歩きます」
それから清水先輩の独特のゲーム感を聞きながらゲームショップへ向かうことになった。岸本さんの件から考えると、僕の方はまだ遠慮気味だけど、清水先輩から見た僕は友達の一人になりつつあるのかもしれない。それでも、桜庭先輩の言った事が正しいのならこの関係性は一過性のものになってしまう。それが惜しいかどうかは……まだ僕の中ではっきりしていない。
ちなみに、清水先輩はゲームショップに着いてから10分足らずで「堪能したから帰る」と言って別れることになったとさ。
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