4月22日(木)晴れ 大倉伴憲との日常

 自分の本当の趣味を誰かに話すことは意外と難しい。その趣味が世間一般で見て普通の趣味であったとしても、話す相手に不快に思われたり、気に入られなかったりすれば、それを話すべきでなかったと後悔することになる。

 だから、新しい環境では大っぴらに趣味を言うべきではないないのだ。


 一方で、本当に趣味を共有できる相手が見つかりそうな時は、自分の趣味をさらけ出すことも必要になる。もちろん、一気に全て出すのは良くないだろうけど、少しずつ出して話せる相手とわかっていけば、その相手はかけがえのない存在になるはずだ。


「う、産賀くんは、アニメとか見る……?」


 3時間目終わりの休み時間。声をかけてきた大倉くんはそんな話題を振って来た。短い休み時間だと、こうやって大倉くんと喋ることが多いけど、その時の話題の多くはゲームに寄っていた。

 そして、そのやり取りから大倉くんは察したのだろう。僕がオタク側の人であると。


「うん。たくさんではないけど見るには見るよ」


「じゃ、じゃあ、今期は何見てる……?」


 その聞き方は僕がアニメをわかっていないと成立しないものだ。ただ、僕はオタク寄りではあることは間違ないけれど、残念ながらそれほどアニメを見ているわけではなかった。


「ヒロスクの5期は見てるよ」


「お、おお! ヒロスクも順調にアニメ化してるよね」


「時間帯も前と同じだから見やすくて助かるよ」


「う、うん。あの時間帯はアニメ固定だから、ボクもよく見てて……」


 僕の回答は大倉くんの求めていたものとは少し違ったようだ。それでもせっかく大倉くんが話題を振ってくれたのだから、僕も聞かないといけない。


「大倉くんは何見てるの?」


「ぼ、ボクは……」


 恐らくいくつかある候補の中で、大倉くんは一つを絞ろうとしている。それが僕に対してさらけ出すことになる大倉くんの本当の趣味の一つなのだろう。


「ゾンナラR……とか」


 少し不安そうな表情で大倉くんはそう言った。


「わ、わかんないかな……」


「ううん、名前は知ってる。けど……本編は前のやつ含めて見たことないんだ」


「そ、そうなんだ! あ、あのアニメ、見た目はイロモノっぽい感じだけど、しっかりストーリーが作られてて……」


 それから大倉くんはその作品の見どころをしっかりと教えてくれた。つまり、大倉くんの中では僕がこれくらいの話はしていい相手になったのだ。それなら僕も少しだけ好みを出してみよう。


「へぇ~ 今期は全然だけど、前期のじょしキャン2期も良かったなぁ」


「じょしキャンも安定して良かった! あっ、前期と今期の他のおすすめは……」


 その後も大倉くんは休み時間が終わるまで楽し気に話していた。


 今日話したことは大倉くんにとってはほんの一部なのかもしれないし、僕は全てを知ることはできないかもしれない。だけど、こうやって少しずつさらけ出すことは、きっとより良い関係になるために必要なことなんだと思う。

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