エッチなおばばと虫唾のいいところ

山川 湖

プロローグ 【傾城の佳人】 舞台:自宅

子機が鳴る。数十秒経っても鳴りやまず、誠二郎が痺れを切らして受話器を取る。


誠二郎「しつけえなぁ。選挙なら行く気ねえから、電話してくんな」


母親「ママよ」


誠二郎「あんだよババアかよ。選挙活動のクソ電話かと思ったぜ」


母親「仮にクソ電話でもその言い方は無いんじゃない?」


誠二郎「うるせえな。いい年したガキに説教垂れてんじゃねえよ」


母親「いい年した大人の喋り方じゃないからよ」


誠二郎「売り言葉に買い言葉だ。やめようぜこんな下らない話」


母親「童貞ニートで、おまけに選挙も行かない。社会にとってあなたの存在価値はあるの?」


誠二郎「うるせえ。どだい社会の存在価値がねえだろうが」


母親「くだらないこと言ってないで、母の言葉を聴きなさい」


誠二郎「あ?」


母親「私はもう頭にきた。アンタに渡したクレジットカード、今月の請求が来たわ。息子が親の金でFANZAばっかり見て。こんなこと、他所様に言えないわ」


誠二郎「言う必要も無いだろ」


母親「お黙り。ともかく私は、アンタの性に対する価値観がどこまでもバーチャルなことに耐えがたいのよ」


誠二郎「知るか。ならてめえが、とびきり美人な娼婦の一人でも斡旋してくれんのか?」


母親「勘が働くじゃない。今そっちに向かわせてるから、心して待ちなさい」


誠二郎「は!?」


母親「大人になりなさい。一皮剥けるのよ」


誠二郎「勝手なことすんじゃねえよクソババア!! 今すぐ追い返せ!!」


母親「そうカッカしないの。相手はとびきりの大物――かつて傾城の佳人と言われた高嶺の花に、アンタは童貞を奪われるのよ。アンタの人生じゃどうもがいても触れることすらできない高級娼婦なの」


誠二郎「なんだよその古風な異名。いくつの女だ?」


母親「今年で155歳になるわ」


誠二郎「生きる都市伝説じゃねえか!娼婦っていうか遊女だろ!」


母親「私の曾祖母の知り合いらしいわね。まあ本人もやる気になってるから観念しなさい。年金でコンドーム買ったってLINEが届いたわ」


誠二郎「勘弁してくれよ。ベッドの上で死なれたらたまったもんじゃねえぞ」


母親「安心しなさい。彼女、相当絶倫なようだから。絶倫を通り越してタウリンの女よ」


誠二郎「タウリン飲んでんじゃねえか!身体が追いついてねえんだよ!」


母親「名は【ハツ】よ。さあ、ハツの身体をむさぼって、バーチャルな性から解放されなさい」


誠二郎「十分バーチャルな年齢だよ……」


電話が切れる。誠二郎は頭を抱えて、布団をかぶった。

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