第6話パンチ

グローブが届いた。オッサンの助言でバンテージも買った。


「通販はええねえ。すぐに届く」


オッサンは上機嫌だ。


「ほな京子ちゃん、早速やってみようか」


手早く設置されたサンドバッグが目の前にある。


「ほなやってみるで」


オッサンは私の身体を乗っ取りサンドバッグを打った。


「ジャブ、ジャブ、ストレート」


重く鈍い音がジムに響く。


「京子ちゃん、まだ気が付かんか」


ストレートが強烈にサンドバッグを捕らえ、大きく揺れた。信じられないくらいにサンドバッグが揺れている。


「君には天性のパンチをもってんねん。それを生かさんなあかん」


私は揺れているサンドバッグを見て興奮していた。体は乗っ取られてはいるが、自分の中にこんな能力は気が付かなかった。そして驚く事に気分爽快だ。


「そやろ。気持ち良いやろ、それが京子ちゃんの能力やで」


ジャブ、ストレート、フック。サンドバッグを中心に回り込みながら打つ。心地よい感触と自分の未知なる能力に感動している。


「どない?トレーニングにサンドバッグをはさもうか」


うん、と私は答えて、やり方を教えて欲しいとオッサンに言った。


「任せとき。サンドバッグの時はちょっと京子ちゃんの意識を半分渡すわ」


私はなんだかトレーニングを終えるのが惜しく、しばらくオッサンのコーチでサンドバッグを打った。


「京子ちゃんは左利きやけど右も十分威力ある。ジャブも打ってみよ」


私のジャブがサンドバッグを捕らえる。鈍い音が響く。


「ちょっとやってみただけでここまでできるんやで。今日は出来るとこまでやろ」


私は夢中になってサンドバッグを打った。打ち終えると心地よい疲労感が有った。


「どないだ?楽しいやろ?」


うん、と私は答えて揺れるサンドバッグを止めた。

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