第44話 オーガゾンビ戦

 ユニークスキルで全員のレベルを上げるとともに、俺は『ブロック』と『グランドパワー』も使い、防御力と攻撃力も上昇させた。


「す、すごい……自分じゃないみたいだ。補助魔法ならまだしも、一時的にレベルを上げるスキルなんて聞いたことがないですよ。アレックス、君はとんでもない人物と仲間なんですね」

 ニコラスは自分のステータスを見ながら驚いている。


「ニコラス、驚いている暇はないぞ」

 アレックスはニコラスには向かず、両手で剣を構えた。


 ドス ドス ドスと、オーガゾンビがこちらに気づき向かってくる。


 ニコラスも盾を構え、前に進み出た。

 アレックスは両手で剣を持つ攻撃重視の戦士だが、ニコラスは片手剣と盾を持つ、防御重視の戦士のようだ。


 ゲームで盾持ちの戦士と言えば、タンクと呼ばれる、敵の攻撃を引き付けパーティを守る役割だ。

 この世界でも、学園の授業を聞くかぎりは同じようだが、彼がいるとどんな戦いになるのか、俺はすこし興味が湧いた。


「まずは私からよ!」

 モンスターとの距離が詰まる前に、セシリアが風魔法で攻撃を仕掛けた。


「グオオオォォォォォォッ!」

 魔法を喰らったオーガゾンビは、セシリアに向きを変える。


 しかし、すぐにニコラスが前に出て、盾を構えオーガゾンビに突進した。

「そっちには行かせません!」


 それからアレックスとブラッドリーが交互に攻撃をする。

 いつもならそのまま反撃をされるところだが、オーガゾンビはワンテンポ遅れたように見えた。


「挑発スキル、なかなかのものね」

 セシリアが横でそう呟いた。


「挑発スキル?」


「ええ、モンスターの敵意を自分に向けるスキルよ。ニコラス君が抜群のタイミングで挑発スキルを発動させ、オーガゾンビの気勢を削いでいるわ。彼がいれば、テツヤ君に攻撃が向くことはまずなさそうね」


 なるほど、聞いていたとおりのようだ。

 モンスターは普通、自身へ大きくダメージを与えた者に反撃をしようとするが、それを強制的に自分へ向けさせてパーティを守るのが盾戦士。


 俺も前に出て棍棒で攻撃に参加してみると、想像以上に安心感があった。

 一瞬たりともオーガゾンビの敵意がこちらに向くことはなく、攻撃に集中することができる。


 俺程度ならともかく、ブラッドリーですら同じ状態なので、オーガゾンビはかなりの速度でHPを減少させていった。




「思ったより強くないけど、HPが高過ぎない?」

 戦闘が始まりだいぶ経った頃、セシリアが言った。


 ニコラスがいるおかげで戦闘に安定感が出て、レベル22のオーガゾンビ相手にここまで苦戦することなくきている。

 しかし、それにしては倒すのに時間が掛かり過ぎていた。これだけ総がかりの攻撃のわりに、相手にとどめをさせないでいるのだ。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! そいつ、HPが回復してるみたいだ!」

 俺はオーガゾンビのHPが、ダメージを受けない時は増え続けていることに気づいた。


「自己回復を持ってるってことね」


「最初はそんなことなかったと思うけど……」

 戦闘を開始したころはHPを意識して見ていたが、回復していた覚えはなかった。


「ってことはボスモンスターってことじゃねえのか?」

 ブラッドリーが唾を吐いた。


 俺たちが実戦経験のあるミノタウロスは、HPが半分を切ると斧を投げる攻撃をしてきた。

 学園の授業で聞いた話によると、ゴブリンロードというボスモンスターはHPが半分を切ると全方位の範囲攻撃をしてくるそうだ。他にも弱点属性が変わったり、能力そのものが高くなるボスモンスターもいるという話だった。


 つまりボスモンスターはHPが半分を切ると特性が変わるという特徴があり、今戦っているオーガゾンビも、HPが半分切ってから自己回復するようになったのではないか、という結論なのだ。


「どおりで手応えのわりに倒せないわけだな。テツヤ、このままでもいつかは倒せそうか?」

 アレックスはオーガゾンビに攻撃をしながら、俺に聞いてきた。


 俺はオーガゾンビのステータスをじっくり観察した。

 セシリアの魔法攻撃に、アレックス、ニコラス、ブラッドリーの攻撃が続くとかなりのダメージを与えているのが分かる。


 しかし、次にセシリアが魔法を撃つ頃には、HPの数値は同じぐらいに戻っている。

 しかもHPの回復速度は、HPが減れば減るほど大きいようなので、俺の攻撃を加えたところで、結果は同じように感じた。


「ダメだ。このまま続けても、倒し切ることはできそうにない……」

 俺はアレックスに答えた。


 このまま戦闘を続けると、敗北するのは俺達のようだ。

 ユニークスキルで一時的にレベルを上げ能力が高くなっても、高レベルの魔法やスキルが使えるわけではない。

 オーガゾンビの回復力を上回る攻撃がないと、MPだけが減る消耗戦だ。


「クソ、これだけやっても決め手に欠けるってことかよ」

 ブラッドリーから焦りの表情が見える。


「皆さん、私に提案があります」

 ニコラスがブラッドリーの肩に手を置き言った。


「あ? ニコラス、てめえなんだ急に?」


「少しの間、ブラッドリーとテツヤ君、セシリアさんの三人だけで攻撃を続けてください」


「はあ? なんだそれ? まさかオレ様とテツヤが攻撃喰らうのを前提で言ってるんじゃねえだろうな?」


「はい、私とアレックスが参加しないので、二人にはあのオーガゾンビの攻撃を、なんとか耐えてもらいます。ここはエメラインさんの回復も期待させてください」


「任せてくださいですー」


「おいおい、オレ様やテツヤであれの相手しろってことかよ。アレックス、ホントに大丈夫なんだろうな?」

 ブラッドリーがアレックスを睨みつけた。


「……ニコラス。まさか、あれをやろうとしてるのか?」


「はい! いつか君と試してみたかったんですよね! 君とならきっと!!」


「そうか……、わかった。みんな、ニコラスの作戦で行くぞ」


「チッ、しっかり責任とりやがれよ!」


 なんだか分からなかったが、俺たちはニコラス達を信じ、ブラッドリーと二人だけでオーガゾンビを迎え撃った。


 ユニークスキルを使っているため、今のレベルは18で、HPも230以上ある。

 回避スキルもレベル6まで上げているので、オーガゾンビの直撃を避け、かなりダメージを軽減させることができているはず。

 それでも俺が受けるダメージは、一撃60を超えていた。


「おいテツヤ、てめえは無理すんな! オレ様がなんとかしてやる!!」

 ブラッドリーはそう言って、俺を庇うように前に出て攻撃を続ける。


 俺よりも遥かに優秀なブラッドリーは、攻撃を受ける頻度がだいぶ少なかった。しかし、それでも鉄製の防具を付けているわけではないので、6発も受ければHPが0になる。


 エメラインが必死で回復魔法を使ってくれているが、そう長くもちそうにない。

 俺も焦りを覚え始め、アレックスとニコラスの状況を確認した。


「ニコラス、いけるぞ!」

「うん、これなら!」


 二人の声と同時に、身体から淡い光が浮き出てきた。

 そしてその光が結びついたと思うと、アレックス達は同時に駆け出した。


「はああああああっ!!」

 アレックスが勢いよく斬りかかる。

 先ほどまでの彼の攻撃より、明らかに速度が増しているように見えた。


「次ぃぃ!!」

 アレックスの攻撃後すぐに、ニコラスが斬りかかる。


「おいおい、これってもしかして……」

 ブラッドリーが驚いた様子で言った。


 アレックスとニコラスは、次々と順番に攻撃を繰り出す。

 息つく暇もなく、まるで二つの身体が連動して動いているかのように、交互に攻撃を繰り返した。


「す、すげえ……」

 息がピッタリというレベルではなく、俺は思わず声が漏れた。


「あれはエクストラスキルでもかなり特殊な『連携スキル』よ」

 セシリアが俺に近づき言った。


「連携スキル?」


「ええ。能力が近くて、強く信頼し合っている同士じゃないと発動することができない、二人で同時に使うスキルよ。通常のエクストラスキルより、遥かに高い効果があると言われているわ」


「なるほど……」

 俺はみるみるとオーガゾンビのHPが減っていくのを確認した。

 二人の攻撃は、オーガゾンビの回復速度を大きく上回っている。


 信頼し合った者同士で発動させる連携スキルか。

 なんだよあの二人、格好いいな。


「これで終わりだ!!」

 最後は二人同時に攻撃を与え、オーガゾンビは絶命した。

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