第41話 食い違い

 昨夜のキャンプが楽しく、遠足気分が抜けないまま、翌日も遠征を続けた。

 今日の予定は、学園長たちが控えている中継地点を経由して、夕方ぐらいまでに目的地点へ到着することになっていた。


 中継地点では、初級から上級まで全てのコースが一度合流し、出席確認をしてから改めて自分のコースに戻ることになっていた。


「思ったよりモンスターは出てこないわね。中継地点に引き返して上級コースに行った方がいいかしら」

 二日目も戦いはすべて俺が引き受けているのに、セシリアは物足りなさそうに言った。


「あっち行ったとこで一緒じゃねえのか? 魔王クラスの奴らでも大丈夫なんだろ?」

 ブラッドリーは退屈そうに身体を伸ばした。


「それもそうね。あっちに行ったらテツヤ君じゃ手に余って、私たちも戦うことになるかもしれないし」


「だよな!」


 こいつら、なに変なとこで意気投合してんだよ。

 昨日の朝、俺たちは学園の生徒なんだからどうとか言ってなかったっけ?


 俺は、やっぱり学園の行事なんて参加するものじゃないと思いながら、ゴブリン退治を黙々とこなしていった。



 そうこうしていると、中継地点を離れ少し経った頃に初めてゴブリン以外のモンスターと遭遇した。

 相手によっては、アレックス達も一緒に戦うかもしれない。


 俺は、これでやっとパーティ戦に戻れると思いながら、モンスターのステータスを確認すると、嫌な予感が頭をよぎった。


 --------------------------------------------

 名前 グールA

 レベル 16

 種族 グール

 HP 216/216

 MP 105/105

 攻撃力 57

 防御力 39

 --------------------------------------------


 現れたのはレベル16のグールが3体。

 人を食べるアンデッド系モンスターだ。

 もちろん、俺たちのパーティならこの程度のモンスターは、どうとでもなるのだが……。


「テツヤ君。念のため聞くけど、あのモンスターのレベルは?」

 セシリアが俺に近づき確認してきた。


「あれはレベル16のグールだ」


「そう……レベル16なのね……」


 セシリアだけでなく、他のメンバーも俺と同じことを考えているように見える。

 俺たちは、とくに何も語らず、目の前のモンスターを片付けた。



「おい、今度はちゃんと見つけたぞ!」

 戦闘終了後、ブラッドリーが何かを見つけ拾ってきた。


「それは?」


「テツヤ、てめえはアホか! このタイミングで見つけるものっていやあ、罠の証拠だろうが!!」


 ブラッドリーが見せたのは、石の欠片だった。


「やっぱり魔法の形跡がまだ残っているわ。さっきのモンスター、間違いなくこの召喚石から現れたみたいね」


「召喚石?」

 俺はセシリアに聞き返した。


「ええ。その名のとおりモンスターを召喚することができる石よ。そうそう手に入るようなものではないけれど」


「そういうことだ。おいアレックス! 中継地点まで戻るぞ!」


「ああ、そうだな」


 やはり、今回も俺たちを危険な目に合わせるための罠だったということだろうか。

 少なくともアレックス達はそう思っているようだが、あれだけ約束をした学園長が破るとは思えない。


 まさか新聞へのリーク対策でも出来たのだろうか。それとも断り切れないほど貴族からの圧力があったのか。

 何にしても、もう一度学園長のトバイアスと話す必要がありそうだ。




「トバイアス学園長。これはいったいどういうことでしょうか?」

 中継地点へ戻り、小屋に一人でいるトバイアス学園長を見つけると、アレックスが冷静だが強い言葉で言った。


「急に何かね? アレックス君たちはだいぶ前に中継地点をたったと思うが」


「ふざけんな! これは何なんだよ!!」

 ブラッドリーが召喚石の欠片を差し出した。


「……どういうことかね?」


「どういうことか聞きたいのはこちらの方です。学園側は我々に干渉しないのではなかったのですか? 初級コースにグールが出現する罠を仕掛けたのは何故ですか?」


「ホブゴブリンとミノタウロスの件は水に流してやっただろうが!」

 ブラッドリーはアレックスの言葉に被せた。


「グール? ミノタウロス? 何のことかね?」


「何とぼけてんだ!!」


「ブラッドリー、待って! おかしいわ、本当に学園長は知らないのかも。アレックス、ちゃんと確認が必要かも」


 アレックスは、セシリアに頷くと話を続けた。


「学園長。もう一度お尋ねしますが、学園は今まで我々にどんなことをしたのでしょうか?」


「今さらですか……。学園は君たち勇者クラスの生徒には、強制的に合同実戦に参加してもらい晒し者になってもらいました。チェスター君にちょっかいを出したときには、外出禁止にするために有料ダンジョンの地下五階を貸し切りにしたこともありましたね」


「……それだけですか? 学園のダンジョン実戦に我々が参加したときに、モンスターレベルを引き上げたり、ホブゴブリンが出現する罠を設置しませんでしたか? 有料ダンジョンでは地下五階からミノタウロスのいるボス部屋へ強制転移させられました。魔法具の暴走も学園側の仕業だと思ってます」

 アレックスは感情を表さず、淡々と説明した。


「アレックス君。君の言っていることは全て事実かね?」


「もちろんです。ここで嘘をついても何の意味もありません」


 こういう時の堂々としたアレックスは心底頼りになる男だった。

 どんな相手でも怯むことのない彼は、学園長であろうと誰であろうと、軽んじられることはきっとない。


「もう一度聞くが、君たちはホブゴブリンやミノタウロスに襲われ、今日はグールに襲われたと言うのかね?」


「はい、そのとおりです」


「そうですか。――――信じてもらえないかもしれませんが、私はその話を一つも知りません。いくらなんでも、そんな危険な真似まではしませんし、学園長である私が把握してないのですから、単なる偶然ではないでしょうか」


「おい、ちょっと待てよ!」

 ブラッドリーが抑えきれず食って掛かった。

「学園がやらないで誰がやるってんだよ! 学園内のダンジョンじゃ間違いなくホブゴブリンは罠の形跡があったぜ! 有料ダンジョンに関しちゃ、地下五階に行った途端に転移の罠が発動しやがった! 今日のは証拠だって揃ってる! 言い逃れなんてさせるかよ!!」


「ブラッドリーの言う通りです。偶然ではなく、何らかの意図があるのは間違いないかと」


「……」

 トバイアス学園長は黙って俺たちを見回した。


 ブラッドリーは言い逃れをさせないと言うが、エメラインが何も言わないということは、学園長は嘘をついていないのだろう。

 だが、偶然なんてことは流石にないはずだ。


「もし、君たちの言っていることが本当なら、いや、君たちが言うのだから本当なのだろう。だとしたら考えられることは……、でもそんなことが……」


「トバイアス学園長、心当たりがあるのですか?」

 アレックスはトバイアス学園長の言葉を見逃さずに尋ねた。


「今日のような遠征をするときや、学園内のダンジョン実戦があるときは、必ず教師が事前調査をすることになっています。模擬戦で魔法具を使う時もチェックをするようにしています。一年生の場合、それらは全て同じ方にお願いしており、君たちを有料ダンジョンへ行かせる時も、同じく貸し切りの手配をお願いしました」


「おいおい、そいつなら今までのこと全部可能じゃねえか!」

 ブラッドリーが待ちきれなく口を挟んだ。


 たしかに、状況的に俺たちを罠にハメることができた人物がいたことになる。

 俺たちが問いただす相手は、学園長ではなくそいつなのだ。


「で、それは誰なんですか?」

 アレックスの質問に、皆が固唾を飲んだ。


「魔王クラス担任の、デール先生です」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る