第39話 恩恵?
それが起きた時、事の重大さに俺はまったく気づいていなかった。
夏休みが終わって、二か月ほど過ぎた頃、ブラッドリー、セシリア、エメラインのレベルが14に上がったのだ。
「お前らもレベル14か。さすがに差を感じるよ。でも、おめでとうな!」
俺は素直に仲間の成長を喜んだ。
「……」
誰も俺の言葉に反応しない。
無視をされたというより、考え込んで聞こえていないようだ。
「なんだなんだ? そんな呆然として、レベルアップがそんなに嬉しいのか?」
少し皮肉を込めて言ってみた。
「テツヤ、もしかして分かってねえのか? オレ様たちが前回レベルアップしたのがいつか、覚えてねえってことないよな?」
ブラッドリーは何を言っているんだ?
三人がレベルアップしたのは、たしか夏休み直前ぐらいだったと思うが。
俺は、あの時の取り残された気持ちを思い出した。
「テツヤ君はやっぱり分かってないみたいね。私たち、三か月ぐらいでレベルアップしたのよ」
「早すぎますー」
セシリアとエメラインが、少し真剣な表情をしている。
一つレベル上げるのに半年ぐらい掛かると思っていたので、三か月はたしかに早いとは思うが。
「夏休み頑張ったからじゃないのか? 俺たちだけでボスモンスターを倒したし」
「それにしても早すぎんだよ! それにな、あの時から何かおかしいって実感もあるんだよ!!」
「ブラッドリー、キミもなの? 私も、あの時からレベルアップが近くなったって感じがしていたわ」
「テツヤさんがユニークスキルを使ってからですー」
三人とも何を言っているんだ? 俺がユニークスキルを使ってから何かが変わったってことか?
今回レベルが上がっていないアレックスに、俺は視線を向けた。
「どうやら、みんな同じ意見のようだな。俺はまだレベルアップしていないが、もうすぐ上がりそうな感覚がある。テツヤ、ユニークスキルの説明欄に何か書いてないのか?」
アレックスまで……。
見るまでもないが、改めてユニークスキルを表示した。
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青春万歳
スキル種別 ユニーク
使用条件 一日一回まで
効果
友情パワーを全開にしパーティメンバー全員のレベルを戦闘中のみ5アップさせる。発動させるには、両手を挙げ大声でスキル名を叫ぶ必要がある。
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「戦闘中のみレベルを5上げるとしか書いてないが……。俺のスキルは関係ないんじゃないのか?」
「ん~、ユニークスキルまでなると、効果が全て書いてあるわけじゃなさそうね」
セシリアは俺のスキルが原因であることを、譲る気はないようだ。
「お前らは、俺の使ったユニークスキルの恩恵として、レベルが上がりやすくなったって言いたいんだよな? もしそうだったとしても、それはそれで良くないか? 早くレベルが上がるなんてラッキーじゃねえか!」
「テツヤの言いたいことは分かるが……。ここは大事なところだ、判断は保留にする」
アレックスは何も結論付けずに、言葉を含んだまま切り上げた。
みんなはいったい、何をそんなに気にしているのだろうか。
それから一か月後に俺とアレックスもレベルが上がった。
俺としては念願のレベルアップとなり、久しぶりのスキルポイント取得で喜んでいたいところなのだが、またあの話題に戻っていた。
「アレックス、てめえもこれで分かったんじゃねえのか?」
「ああ。ブラッドリーたちの言う通り、テツヤのユニークスキルによってレベルアップに必要な経験値が下がっているようだ」
「だろ? またコイツはとんでもねえ事やりやがったぜ!」
ブラッドリーがそう言うと、四人が俺に視線を向ける。
「おいおい、なんか悪者みたいな目で見ないでくれよ。レベルアップしやすくなるなんて、すげえ良いじゃねえか!」
「すごく良いどころか、良すぎるのよ。ユニークスキルと言っても、レベルが上がりやすくなるなんて聞いたことないわ。もし、この話が知れ渡ったら、世界中が大騒ぎになるわよ!」
「せ、世界中!?」
セシリアはちょっと大袈裟すぎやしないだろうか。
「テツヤ。これはお前が思っているより遥かに大きな事だ。このことでお前はもう普通に学園生活を送ることが出来ないだろう。皆がお前を手に入れたがるし、悪意ある者に捕まれば、どう扱われるか分からないぞ」
「ヘタすりゃ戦争になるんじゃねえのか?」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ! いくらなんでもそんなこと」
アレックスとブラッドリーの言葉に、俺は急に焦りを感じていた。
やっとの思いで手に入れた大事なものを、失ってしまうのではないかという恐怖感に包まれたのだ。
「ま、上手くやりゃあ金持ちになれるかもな。チヤホヤされて良い思いできるかもしれねえぜ?」
「別にチヤホヤなんてされたかねえよ! 差別されるよりマシかもしれないが、俺はお前らと一緒に学園生活を送りたいだけだ!!」
あれ、もしかして恥ずかしいこと言ってないか?
でもそれは本音だった。俺はただ普通に青春を過ごしたいだけだった。
「あらテツヤ君、言うようになったじゃない」
「テツヤさん素敵ですー」
セシリアとエメラインが笑顔を向けてくれた。
「テツヤ、お前の言いたいことは分かった。ここは俺たちだけの胸にしまっておこう。ブラッドリー、それでいいか?」
「チッ、もったいねえ奴だ。まあ、そこまで言うなら仕方ねえ。オレ様たちだけの秘密ってことだな」
ブラッドリーは俺を見ずに言った。
「た、助かるよ」
皆の協力も得て、なんとか乗り切れそうだ。
ただでさえあまり使いたくないユニークスキルなので、注目されたらたまったものじゃない。
「じゃ、この話はここまでね! あ、でも、このままじゃ私たち、卒業する頃には相当なレベルになっちゃうんじゃ?」
「何言ってんだ、セシリア! そんなこと秘密にしとけばいいんだよ! なあテツヤ?」
ブラッドリーが俺の背中を叩いた。
何故か機嫌が良さそうだ。
「そ、そうだよな。別に公表しなくてもいいんだろ?」
「まあそうだけど……。そうね、今考えても仕方ないわね」
「内緒がたくさん増えましたー」
「はは……」
エメラインの言う通り、ずいぶん俺の事で内緒にしてもらうことが増えた。
なんだか申し訳ない気持ちだが、そんなことを口に出したら怒られそうだ。
俺は心の中で皆に感謝した。
「なあセシリア。こんなことって、『異世界人』ならよくあることなのか?」
「どうなんだろ。前に言ったかもしれないけど、『異世界人』だからってユニークスキルまで持っている人は少ないらしいのよね。ただ……」
「ただ?」
「『異世界人』はレベルアップが異様に早いって聞いたことがあるわ」
「ふうん、そっか」
俺の件と似ていなくはないが、ちょっと違うようだ。
なにせ俺自身は、とくにレベルアップが早いわけではない。
俺は『異世界人』との違いを見つけられて、少し嬉しかった。
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