第38話 異世界人の特徴

「ハハハハハッ! さすがテツヤ! 相変わらず面白え奴だな!!」


 翌日、5人集まってエクストラスキル習得の話をすると、ブラッドリーが大笑いして言った。


「笑い事じゃないわ! あぶなくテツヤ君が『異世界人』扱いされるところだったんだから!」


「セシリア、昨日は助かった」

 俺はセシリアに礼を言った。


「さすがセシリアさんでしたー」

 エメラインが嬉しそうに言う。


「それにしても、ブラッドリーじゃないが相変わらずのテツヤだな。ユニークスキルの件以来、今さらもう驚いたりはしないが」


「ちょっとアレックス! その場にいなかったからそんなこと言えるのよ! 私なんて心臓が止まるかと思ったんだからね!!」


 セシリアが俺のために、こんな親身になってくれるとは想像もしてなかった。

 もともと面倒見がいいタイプではあったが、それでも彼女に対しての感謝に堪えない気分だった。


「『異世界人』扱いって、そんなに大変なことなのか?」

 勇者クラスで差別に慣れている俺は、そこまで問題とは思ってはおらず、思わず聞いてみた。


「はあ……さすがテツヤ君だわ……。エメライン、教えてあげて……」

 セシリアは、もう疲れたと言わんばかりに、座り込んでしまった。


「『異世界人』ってことになったら、世界中の人に嫌われてしまいますー。監視されることにもなりますし、悪いことしたら普通の人より罪が重くなりまーす」


「そ、そうなのか……?」


 異世界転生と言ったら、普通は勇者とかになって尊敬されたり崇められたりするものだと思うが、勇者が嫌われているこの世界だと、やはりちょっとイメージが違うようだ。

 俺が『異世界人』にあたるのかどうかは、本物の『異世界人』にでも会わない限り、答えは出ないかもしれないが。


「テツヤ君て、もしかしたら本当に『異世界人』の血を引いているのかもしれないわね」

 セシリアは俺を見上げて言った。


「たしかに、その線はあるわな。『異世界人』が最後に現れたのが18年前だから、そのあと子供作ってテツヤが生まれたってのは、なくはねえな。テツヤ、てめえ親からそういう話聞いてねえのか?」

 ブラッドリーの表情からは、冗談で聞いてきているのか読み取れなかった。


 まあ、彼らが言っていることは、俺でもそう思ってしまう。

 『慧眼』を持っていて、ユニークスキルも使えて、しまいには何の訓練も受けずエクストラスキルを習得した。

 どう客観的に見ても『異世界人』に関係あるんじゃないかと考えるのが普通だ。


 死んで転生してきたのだから、特異な存在であることは間違いないし、最近は自分でも『異世界人』なんじゃないかと疑っている。

 ただ、どうせなら異世界転生らしくチート級の能力が欲しかった。


 これだけ特別な能力なのに、強いわけでもないし大して役に立っていない。

 本当にこれで『異世界人』だったら、嫌われ損じゃないのかと思うところだ。


「ん? ちょっと待て。ブラッドリー、お前ずいぶん前に俺のことを『異世界人』の生き残りかって言わなかったっけ? みんな死んでるってことじゃないのか?」


「あ? オレ様がそんなこと知るわけねえだろ! 言ってみたかっただけだ!!」


「言ってみたかっただけ!?」

 なんだよそれ、開き直りやがって。


「でも、ブラッドリーの言ったことは当たらずとも遠からずよ」


「どういうことだ?」

 セシリアの言葉に俺は少し興味が湧いた。


「18年前に100人いた『異世界人』は半分以上が亡くなっているという話だし、今でも生存が確認できているのは、ごく僅かなはずよ」


「へえ、そうなのか」

 俺が言おうとしたセリフをブラッドリーが言った。


「だから、テツヤ君の親が『異世界人』なら隠すことは難しいし、学園側はさすがに知っていると思うわ。テツヤ君の扱いからして、そうは見えない」


「そ、そうだよな。親が『異世界人』なんて聞いてないし、ないと思うけど……」

 後ろめたかったが、ここは少し嘘をついた。

 なにせ俺に親がいるかも分からないのだから。


 俺はすべて本当のことを言う気にだけはならなかった。

 なるべく隠し事をしたくないと思ってはいるが、異世界で死んだら転生して冒険者学園の前にいました、なんて話を信じてくれるとも思えないし。


「なあ、『異世界人』の特徴って他にはどんなことがあるんだ? 昨日はセシリアがいてくれたおかげで言い逃れできたが、この調子だと他にもあるんじゃないかと心配なんだが」


「ん~、そうね、何があったかしら。だいたい出切ったんじゃないかな? エメライン、どう?」


「そうですねー。『異世界人』同士は会っただけで相手が『異世界人』だと分かるって、聞いたことがありますー」


 それは決定的だな。

 もし、その僅かな生き残りってのに会うことが出来れば、俺がどっちにあたるのかハッキリさせることが出来そうだ。


 いつか機会があれば探してみようと俺は思った。


「テツヤ。とりあえず当分はエクストラスキルの習得は控えるんだ。『異世界人』と疑われるだけで面倒だ」


「ああ。アレックスの言う通りにするよ」


 ちょっと残念だが仕方ない。

 16歳でエクストラスキルを一つ覚えられれば良い方らしいので、ここは良しとしよう。


「てめえはまずレベルを上げねえとな! たった11じゃ実戦に向いてねえ」


「たしかにな。レベルって一つ上がるのはどれぐらい掛かるもんなんだ?」

 この世界に来て、初めて上がるまでに4か月掛ったが、すでにレベルが上がりそうだったのか、レベル10になったばかりなのか分からなかったのもあり、次の目途が知りたかった。


「そんなこと知るかよ! 半年ぐらいじゃねえのか?」


「半年か……」


 そういえば在学中の三年間で、平均5レベル上がるという話を思い出した。

 そうなると一年生のうちに、あと1上がるか上がらないかってことになる。

 とてもアレックス達に追いつけそうにない。


「焦る必要はないぞ」

 考えてることが見抜かれたのか、アレックスに肩を叩かれた。



 それから、俺を残し四人は各ギルドへ訓練に向かった。

 俺はというと、やることがないので勇者クラスの授業に出ることにした。


 ほとんどの時間が無駄なような気もしたが、アレックス達が戻ってくるまで待つしかなかったのだ。

 こんなことなら訓練していた方が良かったんじゃないかと思いながら、結局四人全員の訓練が終わるまで、12日待つことになった。


 その後は、週二回のダンジョン生活に戻り、日々経験を積んでいった。

 アレックスのレベルは14。ブラッドリー達三人は13。俺は極めて優秀な仲間たちと過ごしているので、普通にCクラスで学園生活を送っているより、遥かに成長しているんじゃないかと感じていた。


 あとはこのまま青春を謳歌していくだけだと思っていた。

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