第36話 辿り着いた場所
「新聞!?」
皆が声を揃えた。
アレックス達は不思議そうな表情だが、トバイアス学園長は驚いた顔をしている。
彼だけは俺の言葉の意味を理解しているようだ。
「そうです、新聞です! 新聞を作っている人からすれば、こんな話、飛びつくと思いませんか?」
最初俺は、SNSでもあれば拡散させてやりたいと思ったが、もちろんこの世界にはインターネットがなく諦めかけた。
だが、夏休みになってから定期的に買っている新聞のことを思い出したのだ。
「君は、私を脅すのかね?」
「はい、そう取ってもらって結構です」
俺の言葉に、初めてトバイアス学園長は焦りを見せている。
元の世界の人間なら、情報が拡散する恐ろしさを誰でも知っている。しかし、この世界の人たちにそれが通じるか分からなかったが、彼には伝わったようだ。
学園長をやっているだけあって、見識が深いのだろう。
「君、名前は?」
「勇者クラスのテツヤです」
「……契約の対象じゃない君が、なぜそこまで関わるのです? 君は分かっているのかね? 学園長である私を脅すとなると、それなりの報いを覚悟しなければなりませんよ?」
「もちろん、分かっています。確かに一生徒でしかない俺が、学園長に盾突くなんて、それなりの覚悟が必要です。でも、俺にとってはアレックス達がいてこその学園生活なんです。彼らが学園を去るのなら、俺だけ残っても意味がないんです。だから俺は、関係なくても、関係あるんです。…………仲間ですから」
「仲間……ですか」
睨みつけるように俺を見ていたトバイアス学園長は、目線を外し席に座った。
そしてアレックス達を一通り見てから、また俺と目線を合わせると、
「冒険者学園は由緒ある学校です。新聞に載ったところで誰も信じないのでは?」
「ええ、新聞なんて読んだこともない人はたくさんいるでしょうし、信じない人はたくさんいるでしょう。それでも、信じようが信じまいが、貴族や学園に対しての猜疑心は強くなると思います。少なからず、この貴族社会に対して疑念を持っている人たちはいて、この記事が広まることで、よりそういう人たちは増えていくと思います」
「……」
「逆に、貴族たちがこれを知ったらどう思うでしょう? この学園からこんな話が漏れて広まったなんて知ったら、どうなるでしょう? 学園への寄付はなくなるかもしれないですし、学園長に責任を負わせることだって考えられます。さきほど学園長は、学園にとって最も賢い選択をしなければならないと言いましたが、アレックス達の提案を受け入れず、差別的な学園の体質が明るみに出るのが、本当に賢い選択なんでしょうか?」
「――――――。君、勇者クラスのテツヤ君と言ったね?」
一瞬、トバイアス学園長が笑ったようにも見えた。
「はい」
「アレックス君たち四人を除けば、勇者クラスはあまり賢くない生徒を集めたはずなんですが、君は少し違ったようですね」
トバイアス学園長は、俺ではなくアレックスを見て、声を上げた。
「いいでしょう! アレックス君、きみの提案を受け入れます! アレックス君たちは今まで通り学園内では実力を見せず大人しくしていてください。また、学園の外でも貴族との争いを禁じます! その代わり、冒険者学園は一切、君たちに干渉しません!!」
「支援金は、どうなるのでしょう?」
アレックスが冷静に返した。
「もちろん、君たちが学園に残る限り、支援は続けます!」
「マ、マジかよ……」
ブラッドリーがそう言ってエメラインに向くと、皆もエメラインの反応を待った。
「学園長は嘘を言ってないですー」
エメラインのお墨付きが出た。
学園長が保証してくれるなら、これでもう問題ないだろう。
これで俺たちは、学園内で変に晒されるようなこともないし、危険な目に合うこともないはずだ。
やっと、普通の学園生活を送ることができる。
「学園長、ありがとうございます」
アレックスが頭を下げると、
「ありがとうございます!」
残った俺たちもそれに続いた。
「ああ。君たちの勝ちです。貴族の方々には私が何とか言っておきます」
トバイアス学園長は敵意のない表情で言った。教育者が生徒に向ける表情だ。
「じゃあ、俺たちはこれで。失礼します」
アレックスがそう言い、俺たちは学園長室の出口に向かった。
「あ、テツヤ君。きみは契約の対象外です。きみが望むならクラス替えをしてもいいですが、どうしますか?」
扉から出ようとする俺に、トバイアス学園長が声を掛けてきた。
「ありがとうございます。でも、俺の居場所は、勇者クラスですから」
俺は躊躇することなく、そう答えることができた。
「新聞なんてよく知ってたわね!」
学園長室を後にし、寮へ戻る途中でセシリアが俺に言ってきた。
いつもよりも何だか違った視線に感じる。セシリアの事だ、新聞に興味があるのかもしれない。
「ま、まあな。たまたま街で見かけて、定期的に買うようになったんだ。あとで持っていくよ」
「テツヤさんはお利口さんですー」
エメラインが優しく微笑む。
長いピンクの髪は、やっぱり笑顔の方がよく似合う。
「そんなことないさ。俺は何にも知らなかったからな。知ることの大事さを教わったから、新聞を読むようになったんだ」
「けっ、テツヤのくせに頭使いやがって」
ブラッドリーは横目で俺を見ながら言った。
少し意地悪で、いつも悪態をついているが、戦闘中は一番メンバーに気遣った戦い方をしていることに、最近気がついた。
「俺は戦闘で役に立たないからな。色んな手段でお前らをフォローするのが、俺の役目さ」
「今回は本当に助かった。ナイスフォローだ」
アレックスが俺の肩に手を置く。
差別さえなければ、彼は間違いなく優秀な冒険者になるだろう。正義感も強く、これからも俺たちを引っ張ってくれる頼れるリーダーだ。
「こちらこそ、皆には感謝している。たまたまクラスの中で同じパーティを組まされただけの俺なのに、お前たち四人からすれば単なる部外者なのに、ここまで連れてきてくれて。何にも出来なかった俺だけど、皆のおかげでちょっとはマシになった気がするよ。ありがとう!」
「テツヤ君、今日は色々どうしちゃったの?」
「テツヤさんがどうかしちゃったですー」
「テツヤ、てめえ言ってて恥ずかしくねえのか?」
「テツヤ、言っていることが恥ずかしいぞ」
「う、うるせえなぁ!!」
俺は言いたいことが言えて、すっきりした。
今日は命懸けの戦いがあったが、学園を辞めるかもしれないような出来事もあったが、全てが吹き飛ぶように俺たちは笑った。
五人揃って、心から笑顔が溢れていた。
明日からも、また学園生活が始まる。
アレックス達は契約に基づき、実力を隠すために授業をサボったり手を抜いたり、ある意味偽りの学園生活かもしれないが、それでも俺にとっては求めていた学園生活が始まる。
仲間のいる勇者クラスが、ずっと辿り着きたかった俺の青春だった。
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