第17話 再びの合同模擬戦
翌週も、模擬戦は全クラス合同で行われることになった。
どういう意図があるか分からないが、俺たち勇者クラスの者からすれば、何かの見せしめにしか感じられない。
嫌々ながら、前回と同様の大競技場に集まると、アナウンスが流れだした。
「皆さん! 本日も全クラス合同の模擬戦を実施します! 実力の違うクラスと戦うことで、自分たちの能力をしっかり見極め、今後の訓練に役立ててください! なお、本日は魔法具の使用も許可されています! より実戦を意識して戦術を組み立ててください!」
魔法具。名前からすれば魔力のこもった道具ってことだろう。
普通の武器より攻撃力が高かったり、魔法のような効果を発動させたりできるんじゃないかと思うが……。
「なあ、魔法具なんて使ったら危険なんじゃないのか?」
俺は不安になり、セシリアに尋ねてみた。
「んー、学園生が持っている魔法具なんてたかが知れてるから、気にするほどでもないわ。それに、この闘技場は致命傷になるような攻撃を受けたら、それを防ぐ魔法が自動的に発動されるように出来てるの。闘技場のセーフティ魔法のおかげで、命を落とすどころか大きな怪我をすることもないわ」
「自動的に発動?」
「そ。HPが0になる前に回復させたりね。ちなみに前回の模擬戦で発動したのは、キミの時だけよ」
「はは……、そうなんだ……」
お恥ずかしい限りだ……。
あとで知ったことだが、模擬戦はHPが半分以下になったら、負けを自己申告することになっているらしい。
俺はそんなルールも知らず、最後までもがいていたようだ。
まあ、今回はアレックス達と同じように俺もさっさと降参する予定だ。
誰も真面目に戦わないなら、俺だけ必死になる理由がないからな。
「それでは最初の模擬戦です。Cクラス第二パーティと、勇者クラス第二パーティは入場してください!」
本日の第一戦が始まった。
前回とは少し組み合わせが変わり、俺たち第四パーティは、魔王クラスではなくAクラスと対戦することになっている。
「おいおい、今日も勇者クラスが来てるぜ」
「恥ずかしくもなく、よく参加できるよな!」
「対戦したらバカがうつるんじゃないのか?」
相変わらず勇者クラスの模擬戦はヤジがひどい。
いや、ヤジというより、ほとんどヘイトクライムだ。こんな中で十代の若者に戦えというのは酷だと思う。
模擬戦は、当たり前のように惨敗した。
俺から見ても、彼らの実力では勝てる要素がない。
「アハハハハッ! 本当に弱えな!」
「あれで冒険者目指してるのか?」
「ここまで来ると逆に面白え!」
同級生に笑いものにされている。
誰もそれを咎めようとはしない。
生徒だけではなく、この学園そのものが勇者クラスを馬鹿にしているようだ。
「くそ……、なんだよ……、こんなとこ入るんじゃなかった……」
模擬戦が終わった勇者クラスの生徒が、戻って来るなりそう漏らした。
悔しがっているを通り越して、完全に心が折れている表情だ。
「よお、勇者クラスのアホども!」
追い打ちをかけるように、魔王クラスのメンバーが近くを通りかかった。
「ちっ、チェスターか……」
ブラッドリーが小さく呟いた。
「前回は楽しませてもらったぜ! 今回は残念ながらテメエらとはぶつからなかったが、またやろうぜ! なあ、弱くなったブラッドリーちゃんよ!!」
「……クソが」
「あ? なんだって? 弱っちくてごめんなさい? ごめん、俺が強くなっただけかぁ! ギャハハハハハ!!」
「チェスター君、クズと話すのはやめなさいと言ったでしょう!」
魔王クラスの担任が現れた。
「デール先生! すみません、こいつらがあまりに弱くて可哀そうなんで、慰めてやってたところなんです!」
「なるほど。でも、こんなクズに君の慈悲の心なんて伝わらんよ。さあ、行きますよ。ニコラス君も、ほら」
デールは、何か言いたそうなニコラスを促し、そのまま去っていった。
「チェスターの野郎、調子に乗りやがって……」
ブラッドリーは、後ろから飛び掛かるんじゃないかと思う顔で、魔王クラスを睨んでいる。
それでも本気でやらないんだろ?
俺は苛立っているブラッドリーを見ながら、心の中でそう呟いた。
アレックスやブラッドリーがどう思われようが、何を言われようが、彼らが自分でやっていることだ。もう俺の知ったことではない。
少しして、勇者クラスの第三パーティとBクラスとの模擬戦が始まった。
勇者クラスのメンバーは、周りからのヤジに委縮し、まったく意欲が感じられないが、対照的にBクラスのメンバーは気合十分といった感じだ。
勝つのが分かっている戦いが嬉しいのだろうか。それとも勇者クラスと戦えることに気合が入っているのか。
俺には理解できない感情だ。
この模擬戦の内容も、想像通り一方的な展開になった。
レベルは同じ、ステータスもあまり差がないのだが、片方はほぼ無傷。片方は全員HPが半分近くまで減っている。
あと少しで降参するのだろう。
「スキルレベルと戦術の差ね」
隣にいたセシリアが呟いた。
「え?」
「こんな結果になる原因よ。たしかに勇者クラス側は魔法使い系メンバーがいないけど、それでも戦いようがあるわ。ただ、スキルレベルの差はどうしようもないわね」
「あ、ああ……」
なんだ?
まったくやる気がないはずなのに、しっかりと観戦しているようだが。
「ま、あんなスキルレベルが上がらない訓練ばかりしてるから、こういう結果になるんでしょうけど」
「スキルレベルが上がらない? いつもやってる訓練じゃ駄目なのか?」
「駄目とまでは言わないけど、4にするのがやっとだと思うわ。あれで5にするには一年以上は必要よ」
「そうなのか……」
冒険者学園と言っても、そんなに効率的な訓練じゃないってことなのだろうか。
それにしてもセシリアは、手抜きをしているわりに色々詳しい。
俺が質問をすると、いつも的確に返してくれる。
南のセシリアと呼ばれていたって話だが、俺にはどうしても彼女が優等生にしか見えない。
「見て、テツヤ君。魔法具を使うみたいよ」
セシリアが指を差した方向を見ると、Bクラスの生徒の掲げた手から大きな光が放たれている。
よく見ると、着けている指輪が光っているようだ。
「魔法の指輪?」
「そう、あの指輪が魔法具よ。これからあの指輪に刻まれた魔法陣が起動して、魔法が発動するわ。あれは炎属性の光だから、フレイムアローかしら」
セシリアが言い終わる前に、指輪から大きな魔法陣が現れた。
アニメや映画で見たことあるような丸い円が、空中に映し出される。
「な、なにあれ……、大きすぎるわ……」
セシリアは驚いたように言った。
大きすぎる? あの魔法陣のことだろうか。
たしかに闘技場と同じぐらいの大きさの魔法陣だが。あんな大きな魔法陣から炎の矢が飛んでくるのか?
俺はどうなるのか少しワクワクしながら見ていると、魔法陣から竜巻のような炎が現れ、勇者クラスの生徒をかすめた。
「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
生徒が大きな悲鳴を上げる。
HPが一瞬で一桁までに減ったのが見えた。
直撃したら間違いなくHPは0になっていただろう。闘技場のセーフティ魔法で大丈夫なのかもしれないが、見ていて冷汗が出た。
「きゃあ、腕が無いわー!」
誰かがそう大声を出した。
本当だ、勇者クラスの生徒を見ると片腕がなくなっている。
今の魔法で燃え尽きたのか? 大きな怪我はしないんじゃなかったのか?
「今のは……ファイアストーム!? それに、闘技場のセーフティ魔法が起動していないわ!」
セシリアが青い顔で立ち上がった。
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