第15話 魔王クラス戦

 勇者クラスの他の2パーティも、模擬戦は惨めな結果に終わった。


 レベルは皆同じ10だが、武器スキルに差があるのか、一対一では相手になっていないようだし、パーティとしてのバランスも悪そうだ。

 こちらは近接武器しか扱えないうえに、魔法が使える者がいない。その点向こうは、前衛後衛としっかり役割分担されている。


 模擬戦の結果は火を見るよりも明らかで、こんな晒し者のような扱いをされて、学園全体からのハラスメントを受けていると言っていい。

 俺は彼らを同情すると同時に、この第四パーティだったことで助かったとも思っていた。訓練をサボってばかりだが、アレックス達の能力が高いのは間違いないのだから。



「アレックス、一年前の決着をつけにきましたよ」

 俺たち第四パーティの出番が来ると、魔王クラスの男が声を掛けてきた。


「ニコラス……」


「あの時は互角でしたが、あれから私も強くなりました。なぜ君が勇者クラスなんかにいるのか分かりませんが、今日は君がどれだけ強くなったか、確かめさせてもらいます」


「……」


 どうやら一年生代表の挨拶をした魔王クラスのニコラスは、アレックスと知り合いのようだ。揃ってレベル13だし、初等学校時代のライバルだったのかもしれない。

 ただ、対戦を喜んでいるニコラスと違い、アレックスは浮かない表情をしている。


「よお、ブラッドリー。今日こそテメエをぶちのめしてやるよ!」

 ニコラスの横にいた、魔王クラスにしては柄の悪い男がそう言い放った。


「チェスター、やっぱてめえもいやがったか……」

 ブラッドリーがあからさまに嫌そうな顔をする。


 ステータスを見るとレベル12。さすが魔王クラスの生徒ってところだ。

 彼らもブラッドリー達と同様、昔からのライバル関係なのだろうか。魔王クラスにしては貴族っぽくなく、素行は勇者クラス向きに見える。


「いいか、ブラッドリー。そっちのアレックスもだ! テメエら平民が俺たち貴族には勝てねえってこと、今日はしっかり教えてやるからな!」

 チェスターは敵意むき出しで言ってくる。


「ニコラス君、チェスター君。そんなクズ共と話すのはやめなさい!」

 生徒とは違う服装の男が現れた。


「デール先生! 分かってます、こいつらに身の程ってやつを教えてたとこですよ!」

 チェスターがデールと呼んだ男に頭を下げると、そう答えた。


「おいてめえ、クズってのはオレ様たちのことか?」

 ブラッドリーが食って掛かった。


「ん? なんだね君は? クズにクズと言って何が悪い?」


「なんだとてめえー」

 ブラッドリーは今にも飛び掛かりそうな勢いだ。


「まさか勇者クラスの分際で、この魔王クラス担任に暴力を振るうつもりじゃないでしょうね? そんなことをしたらどうなるか、分かっているんですよね?」


「…………クソがっ」

 ブラッドリーは何とか自分を抑えてその場を離れた。


「まったく、勇者クラスのクズ共は……。ニコラス君、チェスター君、行きますよ。こんなクズは模擬戦で蹴散らしてやりなさい」


「はい、先生! 俺に任せてください!」

 チェスターはデールに続いて歩いた。

 ニコラスも、一瞬こちらに視線を向け、何も言わず二人を追った。


「何だよ今の。先生があんな態度とるのかよ!」

 俺は吐き捨てるように言った。


「仕方ないわ。私たちは勇者クラスだもの」


 またそれかよ!


 外の世界から来た俺ですら納得いってないのに、セシリアどころかブラッドリーさえ何故か受け入れている様子だ。


 勇者クラスってだけで、そんな悪い事なのか?

 勇者クラス相手なら、何を言っても何をやってもいいのか?


 俺は、この怒りをぶつけてやるつもりで、模擬戦に挑むことにした。



 大闘技場に入ると、外で見ていたより一層広く感じる。

 円形舞台のようになっており、周りを囲むように観戦席がある。一つの学校にある施設にしては、かなり立派に作られていた。


「それでは、本日最後の模擬戦です。対戦するのは、魔王クラス第一パーティと、勇者クラス第四パーティ!」


 魔王クラスに対する大声援と、俺たち対する大ブーイングが沸き起こる。

 完全にこちらが悪役だ。


 相手を見ると、手を上げて声援に応えている。

 ホントにヒーローにでもなった気分なんだろうが、俺から見れば滑稽に見える。

 アレックスやブラッドリーの実力を知ったら驚くぞ。


 ステータスを確認するとニコラスがレベル13、チェスターが12、残りの三人は11のようだ。

 もちろん俺なんかより強いのだろうが、こちらはレベル13が一人で12が三人。俺次第で勝てるんじゃないかと思える。


 足を引っ張らないようにしないとな。

 スキルポイントを気付いた後で良かったぜ。


 俺は両手で棍棒を握り、初めての模擬戦に心を引き締めた。


「それでは、模擬戦はじめー!!」

 アナウンスが流れた。


 俺はブロックの魔法で防御力を上げると、まずは様子をうかがった。


 想像通り、ニコラスにはアレックスが、チェスターにはブラッドリーが相手をする。

 魔法を使う後方の二名は、セシリア達が相手をするようだ。


 そうなると俺の相手は残りの、片手剣と盾を装備した奴だ。

 身体つきも、いかにも戦士っぽく強そうだが、時間稼ぎができればいいと思っている。


 他の四人のところに行かないよう足止めをし、向こうが決着つくのを待っていればいいはず。

 俺はそう自分の役割を認識すると、ゆっくり相手との距離を詰めていった。


「おいおい、勇者クラスのくせに一丁前じゃねえか。そんな棒切れなんて構えてよ」


 こいつも勇者クラスを見下しているようだ。

 生意気な口だが挑発には乗らない。俺は防御力も上げていることだし、身を守ることに徹していればいいのだから。


「勇者クラスがその顔、気に入らねえなあ! 対等のつもりでいるんじゃねえよ!!」

 魔王クラスの生徒が攻撃をしてきた。


 重そうな動作で彼はゆっくりと斬りかかってくる。

 初めての対人戦だが、この程度なら俺でも防げそうだ。

 彼の言う通り俺が持っているのは単なる棒切れ。金属製の剣を受けるには心もとないので、俺は後ろに下がって避けることにした。


 ガン!


 俺の目の前を剣が通り過ぎ、そのまま床を叩いた。


「……え?」


 俺はなんとか避けたが、全身に寒気が走った。

 もっと大きく避けたはずなのに、ほとんど紙一重。あと一秒でも遅れたら、鉄の剣が頭に当たっていた。


 ちょっと待てよ……。

 当たってたら……、死んでないか?


 おかしい。

 ここは冒険者学園で、俺たちはそこに通う単なる生徒。

 そして今は、生徒同士での模擬戦。


 俺は体育の合同授業程度にしか思っていなかったが、たった今、命の危険を感じた。


「オラ! ボケっとしてんな!!」

 魔王クラスの生徒は、さらに攻撃を続ける。


 斬られる?


 俺は慌てて棍棒で剣を防いだ。

 重たい衝撃が両手に伝わってくる。


「チッ、意外と堅いな」


 剣を防いだ棍棒は、多少傷がついた程度だった。

 武器としての棍棒は、思ったより頑丈に出来ているようだ。


「じゃあこれならどうよ!」


 今度は盾を当ててきた。

 俺は棍棒で防ぐが、そのまま押されバランスを崩す。

 彼はそれを見逃さず、すぐに剣を突き刺してきた。


「痛っ!?」


 剣が肩をかすめると、痛みが走った。

 ブロックの魔法で防御力を上げているせいか、出血は少ないが肩を斬られていた。


 やばい、殺される……


 俺は呼吸が荒くなり、全身から汗が噴き出した。

 たかが模擬戦で、なんでこんな痛い思いをしないといけないのだろう。


「なんだお前、怯えてるのか? さすが勇者クラスだぜ。模擬戦程度でそんなんじゃ、命がけで生きる冒険者なんてなれるわけないだろう。さっさと辞めちまいな!」


「くっ……」

 今度も避けきれず、顔を斬られた。身体がこわばって、上手く動かないのが分かる。


 痛い  痛い  痛い


 俺は痛みと恐怖で、頭が真っ白になっていった。

 なんでここにいるのか、なにをやっているのか、理解ができないでいた。


「なんだこいつ、さすがにつまらな過ぎだぜ。おい、こっちから攻撃しねえから、攻撃してきてみろよ」

 挑発するように言ってくる。


 俺は、訳も分からないまま身体が動いた。


「ああああぁぁぁぁっ!」

 なりふり構わず棍棒を振り回す。


 コン


 魔王クラスの生徒は、なんなく俺の棍棒を盾で受け止めた。


「ダメだ、これ以上やっても仕方なさそうだな」


 グサッと剣が太腿に突き刺さった。


「ぎゃああーーーっ!!」

 自分でも信じられないような、情けない声が出た。


「まじで、デール先生の言う通り勇者クラスはクズだな。おい、見てみろ、他の四人も決着がついたようだぞ」


 え?


 俺は脚を抑え、横たわったままアレックス達の様子を確認した。


「降参だ」


 アレックスの声と同時に、みな武器を置き両手を挙げていた。

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