第14話 合同模擬戦

 全クラス合同の模擬戦?


 模擬戦はレベルアップに繋がるという話なのでありがたいが、全クラス合同となるとCクラスの奴らとも顔を合わすかもしれない。

 俺としては少し複雑な気分だ。


「おい、担任! なんで全クラス合同でやる必要があるんだ? 全クラスって魔王クラスの奴らも一緒か?」

 ブラッドリーが苛立った声を出した。


「もちろん全クラス合同なので、魔王クラスも一緒になります。学園長に何かお考えがあってのことですので、これを機に皆さんも上位クラスをお手本にしてみてください!」


「クソが! 面倒なことになりそうだぜ……」

 ブラッドリーは頭を掻きながら呟いた。


「強制参加で全クラス合同なんて、悪意を感じるわね」


「エメラインも参加したくないですー」


 ブラッドリーだけじゃなく、セシリアとエメラインも動揺しているように見えた。

 魔王クラスに対して何かあるのだろうか。ブラッドリー達の能力を考えれば、魔王クラスに引けを取らないので、劣等感があるとも思えない。


 なんにしてもレベル上げをしたいので、初めての模擬戦をしっかりやるしかない。

 俺は自分ができることを想像しながら、模擬戦へ気持ちを向けていた。



 全クラス合同の模擬戦の日、学園内になる大闘技場に1年生全員が集まった。全クラス一堂に会するのは入学式依頼になる。


「おいおい、あれって勇者クラスじゃないのか? あんな奴らとも合同でやるのかよ」

「わたし怖いわ。勇者クラスとなんて模擬戦したら、どんな汚いことするか分からないもの」

「大丈夫、あいつらは見かけだけで、実力はゴミだからな」


 会場がざわつく。想像以上に勇者クラスは目立っていた。

 この世界では、魔王は尊敬され、勇者は憎悪の対象のようだが、勇者クラスの生徒が嫌われる理由はないはずだ。


 クラスの名前に勇者と付いているだけで、これほど嫌悪感を抱く生徒たちも理解できないが、その名前を付ける学園側も理解できない。

 そもそも全クラス合同で模擬戦なんてしたら、うちのクラスがこういう扱いをされるのは目に見えていたはず。


 ブラッドリー達が動揺していたのは、これが分かっていたからかもしれない。

 なんだか気に入らないな。


「皆さん静粛に! これより、全クラス合同の模擬戦を開始します! まずは本日の組み合わせから発表します!」


 参加するのは三十四パーティ。対戦は二パーティずつとなるので、全部で十七戦行われる。各パーティは一日一戦しかしないようで、あとは見学しているだけだ。


 これだと模擬戦をするのが目的というより、皆で観戦する方が目的になってしまう。

 模擬戦をすることで生徒のレベルアップに繋げるのではなく、違う意図があるのではと俺は感じていた。


「やっぱりそうきたか……」

 組み合わせが発表されると、ブラッドリーが不機嫌にそう漏らした。


 我々勇者クラスの参加は四パーティ。それぞれの対戦相手は、Aクラス第一パーティ、Bクラス第一パーティ、Cクラス第一パーティ、そして俺たち第四パーティは魔王クラスの第一パーティ。


 くじ引きならこんな綺麗にならないだろうし、どう考えても実力差を考えない組み合わせにされている。

 咬ませ犬をやらされているような感覚だが、強い相手と戦った方がレベルアップしやすいってことだろうか。じゃないとこの組み合わせの意図が俺には読めない。


 どうも色々引っ掛かる模擬戦になりそうだ。



 それから、すぐに第一戦目の模擬戦が開始されることになった。

 対戦するのは、Cクラスの第一パーティと、勇者クラスの第三パーティ。


 参加メンバーが、俺の目の前を通って、闘技場の中へ入って行く。

 Cクラスのパーティのうち、三人は一緒に勉強会をした奴らだ。あれから一か月ちょっとしか経ってないが、ずいぶん前のような気がする。


 正直、まだこいつらへのわだかまりは拭えていないが、今回は直接対戦することにならなくてホッとした。

 勝つとか負けるとかの問題ではなく、接触するのが嫌だった。向こうも同じ気持ちなのだろう。俺に気付いていても、あからさまに無視をしているのが分かる。


「それでは最初の模擬戦は、Cクラス第一パーティと、勇者クラス第三パーティとなります!」


 闘技場にアナウンスが流れると、大きなブーイングが起こった。


「引っ込めー勇者クラス!」

「てめえら冒険者学園の恥さらしだ!」

「勇者クラスなんて、ぶっ殺しちまえー!」


 同級生に対して言うような言葉とは思えない怒号が飛び交う。


「おいおい……、なんだよこれ……」

 想像以上の反応に、俺は言葉を失った。


「これが勇者クラスの現実よ」

 セシリアが横で言った。


「でも、勇者を憎んでいたとしても、勇者クラスは関係ないじゃん。まったく意味が分かんねえ……」


「そうね、テツヤくんにはそうかもしれないけど、彼らにとっては同じなのよ。もちろん本物の勇者に会ったことのある人なんていないわ。あれは遥か昔、一度だけしか現れてないもの」


「え? じゃあなんでそこまで勇者を憎むんだ?」


「勇者が憎いんじゃないの。憎いものに勇者と名付けるの」


 何を言っているんだ?

 ここは冒険者学園という名の高校で、勇者クラスはちょっと成績が悪い奴を集めただけのクラスなんじゃないのか?

 その言い方じゃ、罪を背負ったものを集めて勇者クラスを作ったみたいに聞こえてしまう。


「テツヤくん、キミは知らないみたいだから教えておくけど、今まで勇者クラスの卒業生で、冒険者になった人は一人もいないわ」


「!?」


 そんな……。

 じゃあなんで勇者クラスなんて存在するんだ?


 分からないことが多すぎて、俺は混乱するばかりだった。


「ぎゃあぁぁぁぁっ!」

 突然、男の悲鳴が聞こえた。


 闘技場に視線を向けると、模擬戦をしている勇者クラスの奴が、出血をしてもがき苦しんでいるのが見えた。


「なっ……、真剣?」


 クラス内で模擬戦をしているときは、木製の武器でやっていたはず。

 なのに彼の脚に刺さっているのは、本物の剣のようだ。


「フン、なんだてめえ、血を見てビビったか?」

 ブラッドリーが鼻で笑った。


「いや……、そういうことじゃ……」


「今回の模擬戦は、金属製の武器の使用も許可されてるの。聞いてなかった?」

 セシリアが俺の疑問を補足してくれる。


 いくら冒険者学園だからって、生徒同士の模擬戦で本物の剣を使うのはやり過ぎなんじゃ?

 日本だったら木刀での試合も許されないだろうに、平気でこんな殺し合いみたいなことをするなんて、やはりここは異世界なんだ。


 俺は急に怖くなってきた。


 その後も、勇者クラスのメンバーが次々と血まみれにされていく。

 Cクラスの元ルームメイトも、気が弱そうなイメージがあったにも関わらず、平気で勇者クラスの同級生を傷付けている。


 その光景を目の当たりにし、俺は思い描いていた甘酸っぱい青春から、どんどんとかけ離れていくのを感じていた。


「そこまで! 勝者、Cクラス第一パーティ!!」


 決着はついた。


 実力差は圧倒的なうえ、向こうには回復魔法を使える生徒がいるので、模擬戦後に傷ついている奴は一人もいない。

 対照的に、勇者クラスは立っていられる奴もおらず、担架で運ばれる者もいる始末だ。


「うわ、ダセェ、弱すぎんだろ!」

「マジ見苦しい奴らじゃん!」

「なんであんなクラスがあるんだ!?」


 敗者に対し、遠慮も心遣いもない。ただただ軽蔑を込めたヤジが再び飛び交う。


 クソ、こんな扱いされるなら、ぜってえ負けたくねぇ!

 頼むぜアレックス、ブラッドリー! お前らなら何とかなるよな?


 俺は魔王クラスと対等に戦えるメンバー達に、祈るような思いだった。

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