第8話 勇者クラス③
午後の魔法実技も、少しするとセシリアとエメラインはどこかへ行ってしまった。
おかげで、パーティ毎の訓練のはずが、またも独りで自主トレのような形になった。まだ現われてないもう一人もそうだが、このパーティメンバーは何を考えているのやら。
と言っても、もう俺も大して変わらないかもしれない。
さっきまでは見返してやろうなんて少し思っていたけど、午前中のイライラが収まると、なんだかどうでもよくなってきた。
Cクラスに戻れるようなことはなさそうだし、この勇者クラスで青春って感じもしない。
せめて冒険者になって異世界を楽しもうと思ったところで、ろくに才能のない落ちこぼれのようだ。
「やめだ、やめ」
俺はセシリア達が座っていたベンチに座った。
独りで黙々と訓練する気にはとてもなれなかった。
とくにやることもなく、勇者クラスの訓練を眺めていて改めて気付いたが、うちのパーティ以外はポンコツ野郎ばかりのようだった。
レベルこそ10だが、まともに魔法を発動できている奴がいない。
知力が低いのもあるかもしれないが、たぶん俺と同じ魔法のスキルレベルが低いのだろう。
あいつらを見ていると、事前に抱いていた勇者クラスのイメージとピッタリだ。
そうなると、おかしいのはうちの三人。
レベルは魔王クラス並みで、スキルレベル7っていうのも、かなりのものなんじゃないかと思う。
学園側がその能力に気付いてないのか、能力以外の理由で勇者クラスに入れられたのか。
「……どうでもよくね?」
考えててアホくさくなってきた。
彼らが何だろうと俺には関係ない。
そんなことより、今後俺はどうしたらいいか考える方が、よっぽど重要だった。
俺は残りの時間も、訓練はせずベンチに座って考え事を続けた。
その間、担任は俺の事に気づいていたようだが、とくに何も言ってこなかった。
訓練が終わると、俺は寮に戻り荷造りを始めた。
クラスが変わったので、部屋も移らないといけない。
幸いなことにCクラスのルームメイトはまだ戻ってきていない。
顔を合わせたら何を話せばいいか分からないし、話したくもない。
ただ、もう彼とは友達でも何でもないが、この部屋を去るのは少し名残惜しかった。短い間だったが、ここには求めていたものがあったのだ。
それに、あいつらは俺がいなくなっても、男女で集まって楽しくやっていくのだろう。そう思うと、残って邪魔をしてやりたくなる。
「ガキどもが生意気なんだよ……」
大声で叫びたかったが、誰にも聞かれないよう、俺は小さな声で呟いた。
荷物を持って向かった勇者クラス用の寮は、別の建物だった。
他のクラスの寮とは離れており、二階建てでかなり古びている。あからさまに差別されているようだ。
「教室も地下にあったし、日本の学校だったら問題になりかねないよな」
とは言いつつも、これならCクラスのメンバーとばったり会うこともなさそうなので、そういう意味で俺は少し安心した。
それからあてがわれた自分の部屋に行くと、ルームメイトがベッドに横たわっていた。
まだ夕方前なのだが、もう寝ているんだろうか。さすが勇者クラスの生徒と言ったところだ。
「テツヤだ、よろしく」
俺は寝ていようが気にせず、声を掛けながら部屋に入った。
「ああ、聞いてる、よろしく」
ルームメイトの男子は、背中を向けたまま返事をした。一応起きていたようだ。
なんだコイツ。こっちを見ないまま話しやがって。態度悪いな。
仲良くやっていこうなんて気はもうないが、ガキにデカい態度をとられるのもムカつく。
ここは初対面のうちにガツンと注意して、立場をハッキリさせておくのがいいかもしれないな。
俺は荷物を置き、半分喧嘩になってもいいつもりで、ルームメイトに注意しようと彼を見た。
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名前 アレックス
年齢 15歳
レベル 13
種族 人間
職業 戦士見習い
HP 181/181
MP 112/112
攻撃力 10
防御力 41
武器 -
防具 学園服
基礎パラメータ
筋力 :155(+6)
生命力:146(+6)
知力 :106
精神力:113
敏捷性:122
器用さ:113
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「な……、レベル……13……」
その男子のレベルの高さに、俺は思わず声が漏れた。
レベル13、魔王クラス首席と同じだ。
あの三人もそうだが、なぜこれほどの生徒が勇者クラスにいるんだろうか。
「……なんだと!?」
突然アレックスが起き上がり、こちらを見た。
白人系の整った顔立ちで、15歳というわりには大人っぽい容姿だ。
「あ、えっと、なにか?」
俺は注意するつもりだったのだが、アレックスの貫禄に負け、気のない返事をしてしまった。
「……いや、なんでもない」
彼は鋭い視線で少し俺を見たと思ったら、そう言ってまた横になった。
なんだよビビらせやがって。
なんだとって何だよ。
気勢をそがれ、このモヤモヤした気持ちの行き場がなくなってしまった。
もう一度声を掛ける空気でもないし、部屋に残っても気まずいので、俺は散歩でもして時間を潰すことにした。
そういえばアレックスって名前、もう一人のパーティメンバーだったな。
俺はこんなやつらと一緒に学園生活を送れってことか。
クソ、何かの罰ゲームみたいだぜ。
俺はアレックスの背中に視線を向けながら部屋を出ていった。
翌日の授業は実技なしの講義のみだった。
家も金もない俺は、学園を辞めず続けるしかないと分かっているので、今日も教室にはちゃんと向かった。
「よおテツヤ、黒服似合ってんじゃねえか!」
教室に入ると、ブラッドリーが早速俺の制服に気付いた。
今日から勇者クラスの黒い制服が支給された。
学園内を歩いているだけで、他の生徒からの視線が変わっているのをすぐ感じた。
「まあな……」
こいつを相手にしても仕方ない。
無視して絡まれるのも嫌だし、俺は軽く返事をした。
教室をよく見ると、ブラッドリーだけじゃなく今日はパーティメンバーが全員揃っている。
実技以外はちゃんと出席しているのかもしれない。
「おいテツヤ、てめえスキルレベルが高くても3しかないんだって? なんで昨日はスキルレベルの低い武器をわざと使ってるのか見てたんだが、わざとじゃなかったとはなぁ!」
笑いながらブラッドリーが背中を蹴ってくる。
「スキルレベル3って、おかしいのか?」
俺は蹴られないよう状態をかがめながら後ろを見た。
「ギャハハハハハ、何言ってんだてめえ! スキルレベル3って小せえ子供のレベルだろうが。マジ笑わせてくれるぜ!」
大声でブラッドリーが笑う。
「ブラッドリー、ちょっとあんたうるさい。クラスメイトを馬鹿にしすぎ!」
セシリアがブラッドリーを注意した。
俺を気遣って言ってくれているんだろうが、そもそもスキルレベル3って知っているのはセシリア達ぐらいだ。バラしたのはお前じゃないのか。
「なんだよセシリア。てめえだってクラス落ちって馬鹿にしてたんじゃねえのかよ」
「は? そういうのは本人の前で面と向かって言うもんじゃないよ!」
裏でも言うもんじゃないよ、お嬢さん。
「いいじゃねえか、スキルレベル3は事実なんだし! なあ、テツヤ?」
さすがに腹が立つので、俺は何も返事せず前を向いた。
色々なことのやる気がなくなっていたが、見下されたままなのはどうも納得がいかない。
ここは冒険者学園。強くなれる可能性があるはずだ。俺はやっぱり真面目に授業を受けてやろうと心に決めた。
学園の授業は、講義だけの日が週二回、実技だけの日が週三回あった。
ブラッドリーたちは、講義の日は一日中授業に参加し、実技の日は来ないか少し顔を出す程度だった。
俺としては、実技にあまり参加しないのはありがたい。
あいつらがいなければ気兼ねなく独りで訓練できるし、訓練するところを見られるのも嫌だ。
待ってろ、そのうち見返してやる。
そう思いながら俺は学園生活を続けた。
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