第2話 新入生

 異世界で15歳からやり直す。

 そう思った瞬間、俺はこの世界や今の状況を即座に受け入れることができた。


 この世界はゲームのようなレベルというシステムがあり、冒険者学園というからには、剣と魔法もあるかもしれない。

 それで、ここはどこかの王国の首都。遠くに城のようなものが見えるので、あれがきっと王城だ。

 異世界転生モノとしてはありきたりな設定なので、俺はチート級の才能の持ち主なんじゃないかと思う。


 だが、そんなことはどうでもいい。俺は、俺TUEEEEしたいわけじゃないし、ハーレムを作りたいわけでもない。ただ、青春をやり直したいだけだ。

 きっと神様が、可哀想な俺に学園生活をプレゼントしてくれたんだと思う。

 俺TUEEEEやハーレムは卒業してからやればいい。


「たった今から、本当の青春が始まったんだ!」

 俺は胸が躍った。


「君、そんなとこでブツブツ言ってないで、入学式の会場まで進みなさい」


 せっかく喜びに浸っていたのだが、空気の読めない受付の男が注意してきた。

 まあいい。まずは最初のイベントから行きましょうかね。


 俺は入学式の会場へ向かった。



 入学式は大きな講堂で行われ、クラスごとに固まって席が設けられていた。


「それではこれより、冒険者学園、王都セントグレスリー校の入学式を始めます。学園長、よろしくお願いします」


 そうアナウンスが流れると、壇上に魔法使いのような身なりをした老人が現れた。

 というかステータス画面を見ると、見た目通り魔法使いのようだ。


「学園長のトバイアスです。新入生の皆さん、入学おめでとうございます。教職員一同、心より歓迎いたします。本日入学された190名の皆さんは、これからそれぞれの目的に向かって学園生活を開始することになります。我が王都セントグレスリー校は冒険者学園の中でも国内最高峰の講師を揃え、誰ひとり欠けることなく皆さんを一人前の冒険者に育てあげます。――――――」


 お偉いさんの話が長いのは、どこの世界も同じのようだが、おかげでだいぶ状況が分かってきた。

 ここは冒険者を目指す若者の通う学園で、3年で卒業になるらしい。

 周りを見ると全員15歳なので、元の世界で言うと高校にあたるのだろう。


 学園長のレベルは20を越えているが、生徒はレベル10しか見当たらない。俺もレベルが10なので、年齢でレベルが決まっているのだろうか。

 普通に考えれば、モンスターを倒し経験値を稼ぐことで、レベルを上げることができるのだとは思うが。


「学園長、ありがとうございました。続きまして、新入生代表の挨拶です」


 学園長の話が終わった。

 入れ替わりで若い男が壇上に上がる。新入生代表と言っていたが、俺や周りの連中とは制服が違うようだ。


「皆さん初めまして。魔王クラスのニコラスです」


 魔王クラス? なんて物騒な名前のクラスなんだよ。

 それにクラスはAからEって言っていたと思うんだが。


 俺は、ニコラスのステータスにも驚いた。


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 名前 ニコラス

 年齢 15歳

 レベル 13

 種族 人間

 職業 冒険者見習い

 HP  171/171

 MP  112/112

 攻撃力 8

 防御力 43

 武器 -

 防具 学園服+1


 基礎パラメータ

  筋力 :140(+2)

  生命力:135(+2)

  知力 :108(+2)

  精神力:114(+2)

  敏捷性:124(+2)

  器用さ:120(+2)

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 レベルが10じゃない。基礎パラメータも俺より全然高い。

 新入生代表ということは、こいつが最も優秀な新入生ということだろうか。


 俺は改めて、新入生たちのステータスを確認していった。

 よく見ると、最前列に座っている奴らが、ニコラスと同じ白い制服を着ていた。彼らは皆レベル11~12のようだ。


 それ以外は俺と同じ青っぽい制服を着用し、レベルは10しかいない。

 魔王クラスというのは特待生クラスだと考えられそうだ。そういえば俺が通っていた高校も、推薦入学だけのクラスがあった気がする。


「それでは皆さん、三年間一緒に頑張りましょう!」

 ニコラスの挨拶が終わり、講堂に拍手が響いた。


 選ばれたエリートか。

 ま、誰の能力が高かろうと俺には関係の無い話だ。



 入学式が終わると各クラスの教室に案内された。

 懐かしい。

 進学しなかった俺にとって、教室なんて高校以来だ。


 初めての場所、初めての人たちに、クラス皆が緊張しているのが伝わってくる。

 周りにいる初々しい面持ちを見ながら、俺はこれから始まる学園生活に思いを巡らせていた。


 担任が自己紹介を済ませると、30人の生徒一人一人も順番に立って挨拶をしていく。

 全員15歳でレベル10。基礎パラメータはそれぞれ違っていて、筋力が高い者や知力が高い者など、多少個性があるようだが、平均値は俺とだいたい同じぐらいだ。

 クラス分けの基準はこれなのかもしれない。


「それでは皆さん、簡単にこれからについてのお話をします」

 一通り挨拶が終わると、担任が話を始めた。


「分かっていると思いますが、我が校は実力主義の冒険者学園。魔王クラスをトップとし、AからEクラスの順に能力でクラス分けされています。皆さんは真ん中程度と判定されCクラスになりましたが、努力次第で上がることも下がることもあります。Cクラスに満足せず、上を目指して頑張ってください」


 クラスが移ることもあるのか。

 ずっと同じクラスで同じメンバーの方が、仲間意識が芽生えて青春って感じがするんだけど。


 俺はうまく実力を隠して、クラスが上がらないようにしようと思った。


「せ、先生」

 隣の席の男子が手を上げた。


「ん? どうしました?」


「努力次第で上がることもあるって話ですが、魔王クラスに入れることもあるんでしょうか?」


「魔王クラスですか……。知ってのとおり、王国内にある冒険者学園の中で、魔王クラスがあるのは、この王都セントグレスリー校だけになります。そのため、彼ら魔王クラスの生徒は国中から集められた秀才たち。そう簡単に肩を並べることはできないですが、もし、君たちに大きな才能が眠っていると判定されたなら、ありえるかもしれません。ただ、逆にまったく才能がないと判定されれば……」


 教室の空気が変わった。

 まったく才能がないと判定されれば、何だというんだろうか。退学?


「まあ、そうは言っても、クラスのことなんかより、君たちはレベルやスキルを上げることの方が大事ですので、そこのところを忘れないでください」


 それから担任は、事務的に今後についての説明を始めた。


 まずは2週間、冒険者に必要な知識を叩きこまれる。

 その後は実技の授業も始まるが、戦士、魔法使い、僧侶など職業によらず、全ての系統をまんべんなく学んでいくようだ。

 一通り学ぶことで、自分の合った職業を探していくことになるのだろう。


 当然、筋力が高いと戦士に、知力が高いと魔法使いに向いているのだと思うが、全ての基礎パラメータが同じ数値の俺は、どんな職業にもなれる万能キャラという設定なのかもしれない。

 どういう道を行くのか、ゆっくり決めれば良さそうだ。どんな仲間が出来るかにもよるだろうし。


 なんにしても慌てる必要はない。

 俺の学園生活は、まだ始まったばかりなのだから。

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