クリア・シンボル:攻略不可能の呪いのゲームを二週目プレイ?
墨
第1話 プロローグ:ゲームクリア?
王座に座る骸骨に闇がまとわりつく。
フッと蝋燭が消え、代わりに青い火の玉があたりを照らす。
『貴様は……、諦めるということを知らないのか』
闇のローブを纏った骸骨が玉座から立ち上がる。
——この演出は、初めてだ。
『これはただのゲームであろう。……何故』
「それ言っちゃう? メタ的存在なのは薄々気がついてたけど」
画面の向こうの骸骨が、少し笑った気がする。
龍と人間が混じり合ったような、威圧感のある骸骨は不死王というこのゲームのラスボスだ。
『永遠は無だ。我は誤ったのかもしれぬ』
システムを開いて戦闘画面へ移行する。
選択した攻撃コマンドが消化されていく間にも、不死王の独白は続く。
いつもとは違う行動だが、その分追い詰められているということだろう。
『収束は死だ。我は
友人から譲り受けた呪いのゲーム。
ゲーム界隈では有名な話らしく、絶対にクリアできない呪いのゲームという都市伝説がまことしやかに囁かれている。
都市伝説の内容は様々だ。
天才が作った神ゲーだけど、嫉妬で制作チームの他メンバーに殺されたとか。
その天才の怨霊が取り憑いたせいで、クリア不可能になったとか。
プレイヤーを飲み込む呪われたゲームだとか。
『貴様は、死後の世界を信じるか?』
「今回の不死王ちゃんはポエミーだな。デレた? それとも命乞い?」
友人が言うには前の持ち主が失踪してしまい、自分でも実際にプレイして確かめて見たらしいが、クリアすることはできずに俺を頼ったらしい。
——アプロ様とあろうものが、呪いのゲームだからってビビってクリアできないなんてあるわけないよなあ!?
いや頼られたっていうより、煽られただけども。
その煽りにまんまと乗せられて夏休みを丸々溶かしている俺も俺だけども。
『人生はゲームか』
このゲームがクリアできないといわれる由縁は、ゲームシステムにある。
スキル制を元にしたありがちなファンタジーなのだが、セーブロードで完璧にやり直すことができないのだ。
不死王のセリフの通り、
セーブロードしても、不死王の記録データはリセットされないのだ。
ゲームスタートは始まりの村に不死の軍勢が襲ってくるところからなのだが、チュートリアルもなく、システムを理解していなかった俺は初見の戦いにぼろ負けした。
村人をアンデッドにする不死の軍勢を倒すために勇敢に戦闘へ向かったのだが、瞬殺だった。
だが、二回目は主人公が戦いを挑む前に、不死の軍勢が行動を変えて
まるで弱い勇者をリスポーン狩りするみたいに。
『ゲームが終われば、我らはどうなる?』
二回目も三回目もあっけなくゲームオーバーし、四回目はもう戦うことを放棄して逃げた。
走る主人公の後ろで家が爆発するムービーはかなりの迫力だった。
その頃はこのゲームの自由度と敵のAIに感動して、セーブロードに対応する敵の面倒さを理解してなかった。
『天国に行くのか?』
俺が選択した主人公は聖魔法を使えるタイプなのだが、敵のボスがガチでメタってくる。
位置がバレれば、その場所に不死の軍勢を差し向けられ、数の暴力で押し潰される。
そうなれば逃げて体勢を立て直すしかない。
幸いにも、敵全員がセーブロードに対応しているわけではなく、不死王だけが世界がリセットされていることを理解できるようだった。
不死王に報告が届く前に倒し切るか、暗殺者のように秘密裏に倒すか。
失敗すれば不死王の命令による物量でのハメが始まる。ゲームの半分は隠れて、もう半分は逃げていたと言っても過言ではない。
『ならば、ここは地獄か』
それでも諦めずに続けていたのは理不尽な方が燃えるタイプだったからだろう。
絶対にクリアできないってことは、誰もこのゲームのエンディングを見ていないわけだ。だったら俺が初めてになってやろうじゃん。
今なら何故このゲームが『クリア不可能の呪われたゲーム』と呼ばれているのかわかった気がする。
セーブロードに対策してくる敵。
本物の人間が後ろにいるんじゃないかと思ってしまうほど高度なNPC。
プレイヤーに近い思考をするラスボスである不死王。
——のめり込んだ人間はゲームに取り込まれる。
あり得ない噂も真実味がおびてくる。
『死は救済かもしれぬ』
ラスボス戦はすでに何度も繰り返していた。
負けて、やり直して、逃げて、育成して。
そしてまた戦う。
不死王の技は全て対策した。
こっちのスキルの九割九分もすでにバレているだろう。
だから技を完封して、新たな技で虚をついて、大技を決める。
『我らが道は違えた』
このゲームを、クリアできる。
聖魔剣の
『一緒に遊びたかったなぁ』
世界は消えた。
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