第54話 それから 2
それから。
日曜日は何もする気が起きず、紗季に悪いと思いながら、部屋に引きこもって過ごした。
「お兄ちゃんは別に悪くないよ。無理矢理奪ったとかじゃなくて、単に別れそうだった男女をすっぱり別れさせただけ。そんなに落ち込むことない」
紗季はそう励ましてくれて。
「誰が悪いとかじゃなくて、一つの恋がそうなるべくして終わったということ。そこで冬矢君が損な役として絡んでしまっただけで、重大な責任はない。落ち込みすぎないようにね。
友達がいなくなるのは辛いし、取り返しのつかないことでもあるかもしれないけど、坂田君だってまた幸せにやっていく。人ってそういうもの。過剰に心配しないでね」
岬先生もそんな言葉をくれた。
そんな優しさに少し救われた、翌日の月曜日。
「あ、あのさ、坂田君と神坂さんが別れたって、本当?」
朝、学校の昇降口にて、俺はクラスメイトの野々村さんに声をかけられた。陸上部に入っている、スレンダーでボーイッシュな女の子だ。
「……情報早いな。誰が言ってたの?」
「んー、私は友達から聞いたけど、その友達はどこからだろ……。わからない。っていうか、とにかく、本当なんだね?」
「うん。そうだよ」
「そっかー……」
野々村さんの口元が緩み、目がキラリと光る。俺に対する好感度は「32」だが、卓磨に対する好感度は非常に高いのが容易にわかった。
「じゃあ、もうフリーってことだよね? 神坂さんが邪魔で……えっと、神坂さんと付き合ってたから遠慮してたけど、もういいってことだよね? 嘘だったら殴るよ?」
「大丈夫だよ。本当に別れてるから」
邪魔で……って。こぼれた本心が怖いぞ。
「よし、よし、よし。うん、だったら、次は私が……。あ、呼び止めて悪かったね。じゃ」
野々村さんが去り、俺のことなどもう眼中にない。一緒にいた紗季のことなどもっと眼中にない。
その後も、他に三人の女子から事実確認があった。どうやら卓磨を密かに狙っていた女子は無数にいるようで、卓磨のこれからの学校生活はハーレム展開になっていくようだ。
「……そんなに心配いらなかったかな」
頭を掻きつつ、紗季と別れて教室に入る。
そこで卓磨と顔を合わせたが、普通に挨拶をしてきた。
挨拶だけは、してきた。
頭上の数字は相変わらずの「28」で、俺に対する好感度は低いまま。それでも、卓磨は一昨日のことなど忘れてしまったかのように陽気に振る舞っていた。
奏にも声をかけていて、不穏なままで終わらせないようにと気を遣っているのがわかった。
たくさんの葛藤を抱えながら、周りに気を遣わせないように努める姿は、とてもカッコよく見えた。……カラ元気具合が不憫でもあったけれど。
友情は、たぶんもう元には戻らない。多少戻るとしても、ずっと先のことだと思う。
あのとき、俺と奏が付き合っているのは偽装で、単に奏は卓磨と別れたがっているだけで……と伝えていたら、俺と卓磨の関係は壊れなかったかもしれない。ただ、そのときには、奏と卓磨の関係がこじれてしまった可能性もある。どちらが正解かなんてわからない。
寂しい思いも抱えながら、俺は卓磨のいない日常を模索することとなった。
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