第13話 撮影会
放課後になり、俺と神坂さんは
これだけの情報だとちょっと艶っぽい展開を期待してしまうが、そこまでの話じゃない。
「良かった。やっぱりここにはほとんど人も来ないし、落ち着いて撮影会できるね」
「……だね」
神坂さんが無邪気に微笑む。ただ、表面的な健全さとは裏腹に、内面では……。
『あー、この二人きりの雰囲気、無性に興奮しちゃうなぁ……。っていうか、あんまり人は来ないけど、実はこの空間ってカップル御用達の秘密空間なんだよね。たまに先客がいて、学校ではしちゃいけないあれこれをしちゃってる。今日は誰もいなくて良かった。はぁ、卓磨との関係があってまだ手は出せないのが辛い。藤崎君とやらしいことしたいなぁ……』
神坂の頭の中では、男よりも男っぽい妄想が繰り広げられているのは想像に難くない。
さて、何故俺たちが二人きりでこんなところに来ているかと言えば、神坂がポスターのモデルをすると言い出したからだ。モデルと言っても実物を見て絵にするということまではせず、元ネタとするための写真を撮りにやってきたのだ。
元々、神坂さんはモデルをするつもりはなかったらしい。だが、俺にイラストを依頼する報酬として何かを渡したいと考え、モデルをやることを思いついた。一応はポスター作成のためのモデルであるが、そのついでに、今後俺が創作に活用できそうな写真をいくらでも撮ってくれていい、と言ってきた。
正直、下手に金銭的な謝礼を渡されるより、よほどありがたい話だと思った。
モデルがいなくてもある程度のイラストを描けるくらいには訓練しているが、やはり、モデルがいるとイラストの質が大きく上がる。あえて女の子にモデルをやってくれなんてお願いする度胸は俺にはないので、神坂さんの提案に胸が躍った。
……まぁ、最近の紗季の様子を見るに、紗季にお願いしたらモデルくらいやってくれるんじゃないかとは思うが、それはまた別の話としておこう。
「どんなポーズがいいかな? 藤崎君の妄想をそのままトレースしてあげるから、何でも言ってよ」
「やめてくれ。そんなこと言われると、スカートをたくし上げて、とかになるぞ」
「わかった。いいよ」
神坂さんがためらいなくスカートをたくし上げる。うぉい! と思わず呻いてしまったが、スカートの下にはばっちりスパッツが穿かれていた。
「あっはっは! 焦っちゃって、ウブだなぁ。流石にわたしもそこまで無防備じゃないよ」
「……男の子の純情を弄ばないでくれるかな?」
「あ、怒った? ごめんごめん。お詫びにスパッツ脱ぐから」
「またからかって……って、うおぃ!?」
神坂さんが、本当にスパッツを脱ぎ始めた。流石に下着を露出してというわけではなく、スカートで隠しながらだが、目の前で女子の脱衣を見せられると激しく動揺してしまう。
「あれ? 撮らないの? こういうシーン、男の子は好きでしょ?」
「……や、やめろ。流石に、同級生の脱衣シーンをスマホの写真に残してはおけない」
たぶん、紗季にもチェックされるだろうしな。バレたらどんな反応をしてくるか……。
『藤崎君はウブだなぁ。もう少し素直に欲望を表現してくれたって、わたしは気にしないのに。
それにしても、見たいけど見ちゃいけない、って目をそらして葛藤してる姿がいじらしい……。今はきっと、わたしのことで頭がいっぱいだよね? うんうん、そのまま、わたしのことだけ考えてくれればいいよ!』
すまん、今、俺はちょっと紗季のことを考えていた……。
とはいえ、やはり神坂さんのことが一番の関心事なのは確か。
「さ、もう大丈夫だから、こっち向いて?」
「ああ……って、足にひっかかってるじゃないか!」
半端な脱衣状態ではなくなっている。しかし、足首にスパッツが引っかかっていて、脱ぎかけ状態になっている。これはこれで妙に艶めかしい……。
「あっはっは。もう、どれだけウブなの? これくらいで動揺しなくてもいいじゃない」
「……お前なぁ。俺は男なんだぞ? わかってるのか? 自制心はちゃんとあるつもりだが、あんまり挑発され続けるとどうなるかわからない」
「大丈夫だよ。藤崎君のこと、信じてるから」
『こうやって誘惑しても、藤崎君は乗ってこない。まだ未経験だといっても、仲のいい妹さんがいるんだし、少しは女子に対して免疫もあるだろうからね。今はただ、強めの刺激で藤崎君の心を揺さぶるだけ。わたしが卓磨と別れたあと、速やかにわたしに対して気持ちを向けてもらうための布石ってやつよ』
スパッツを足から引き抜きながら、神坂さんは腹黒いことを思案している。心が見えると本当にイメージ変わるよなぁ……。
「って、何でスパッツ脱ぐんだよ。撮影のとき、何かの拍子に見えたら困るだろ?」
「別に下着くらい構わないけど? それに、スカートの下には魅惑の下着が……って思える方が、男の子的には燃えるんじゃない?」
「くっ。恋愛上級者め……。下着くらいとか平然と言うなし。それに、ちょっと男心を理解しすぎて怖いぞ」
「そりゃー、半年以上男の子と付き合った経験があれば、ある程度は理解するよ。ウブな藤崎君はもっとウブウブな女の子がいいのかもしれないけど、藤崎君はむしろリードしてくれる女の子の方がいいんじゃない? 藤崎君、自分からちゃんと相手をベッドに誘える?」
「おい! 俺みたいウブな奴に、そういう生々しい話をみだりにするな!」
「あっはっは。ごめんごめん。からかいすぎたね。面白くて、つい。じゃ、真面目に撮影会しようか? わたし、どうすればいい? ラッキースケベ展開を描く資料として、藤崎君の顔にまたがろうか?」
「……そういうのは本当にしなくていいから。っていうか、今日の神坂さん、テンション妙に高くない? 電話でもこんなこと言われたことないけど」
「ふふ? まぁ、ちょっと盛り上がっちゃったかな? だって、しょうがないでしょ? 今が、それだけ楽しいんだから……」
「……なんだそりゃ?」
『彼氏持ちがこんな思わせぶりなこと言うのはダメかな……。でも、藤崎君のことだから、これくらいじゃなんのことかわからないよね。今までだって、わたしがどれだけこっそりアピールしても気づいてない風だし』
いや、アピールには全部気づいているんだけど、ことごとく気づいていないふりをしているだけだ。
心の声がまる聞こえなのを悟られるわけにはいかないし、そもそもどんな反応をすればいいのかわからない。鈍感男子として振る舞うことで逃げているのさ。情けないことに。
「神坂さん、そんなにモデルに憧れてたなら、東先輩がいつだってモデルを募集してるぞ?」
「……はぁ」
「な、なんだよ、その溜息」
「……なーんでもない。ほら、早く撮影しよ! ポスター作成のために少し部活遅れるって連絡はしてあるけど、あんまり遅れるわけにもいかないしさ!」
『……ばか』
「ぐふっ」
「え? 何? どうしたの、急に」
「いや、何でもない。何でもないんだ」
恋する女の子の『……ばか』は想像以上に強力だ。動揺すまいと思っていたのに、思わず胸を貫かれてしまったよ。
必死で平静を取り繕い、俺はスマホを構える。俺に好意を向けてくれる神坂さんは本当に可愛くて……『卓磨と別れたら俺と付き合おうよ』なんて、こっちから言ってしまいたくなっていた。
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